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かのものの名は
それから私は、はじめを見かければちょっかいを出すようにした。
ゆっくり近づき、隙があれば撫でようとするが一度も成功したことがない。
夕方、仕事から帰るとはじめが駐車場にいた。
管理人さんもいて、しゃがんで草むしりをしていた。はじめはその背中を寝そべってじっとみていた。
「手伝いましょうか?」
「んん…あぁ、もう終わるから構わんよ。お仕事ご苦労さん。」
「はじめ…あー、あの猫は、以前管理人さんが言ってた子ですか?」
私ははじめを指さしながら、聞いてみた。
「んー?…何だっけか。ワシ、何か言ったかの?」
…覚えてないんかい!
「寄ってくるけど逃げてく子、ですよ。」
「あぁ、…あの子はね、きっと寂しいんだよ。だけど人を信用してない。…昔は飼い主がいたみたいなんだが、捨てられたみたいでね。初めて見たのは5年くらい前だったか…もっと太ってて首輪もしていたんだが、数か月もしたら毛はボサボサで首輪も外れてたよ。どこを根城にしてるかまでは知らんが、ここじゃ悪さしないから好きにさせてるよ。」
寂しい、人を信用していない…
私からそんな雰囲気を感じて、「野良猫みたい」と言ったのだろうか。
「…その花も抜いちゃうんですね。」
抜かれた雑草に交じっているそれを指して聞いた。
春になれば、どこにでもいる小さな花。
「これか?これは花なんて上等なもんじゃないよ、雑草だよ。名前はなんだったか…そうそうヒメジオン。抜いても抜いても生えてきおる。昔は貧乏草とも言われておったのう…あぁ、じゃからワシは貧乏なんじゃな。」
わっはっはと管理人さんは笑う。返答に困ったので、とりあえず私も笑った。
「これまた面白いことにのぅ、こいつの花言葉?は何だとおもう?…”素朴で清楚”だそうだ。抜くと貧乏になるのに、花言葉が素朴で清楚、なかなか面白いだろ?清らかなものを傷つけると、災いとして跳ね返ってくるとでもいいたいのかねぇ。」
「ヒメジオン…素朴で清楚…」
なるほど、私とは縁遠いな。
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