2.父の日のプレゼント

21/93
前へ
/258ページ
次へ
 髪が白くもさもさしていて、目は真っ黒くて大きい。鼻も長く、ハッキリ言って誰だかわからない。  違うのは輪郭と、坊主の亮の髪が白髪の坊主にしかなっていないだけ。 「亮、ちょっとスマホ貸して」  言いながら亮の手からスマホを取ると、いくつか操作をした。  今撮影したものと、彩が犬になってる写真、お義母さんが撮ったであろう正月の写真を自分に送った。 「写真が欲しかったんだ?」  真がスマホを覗く。 「なんとなく」 「ふーん」  特別思い出を形にして大切にしたいわけじゃない。  ただ、自分が育った環境には、壁一面の写真はなくて、初めて見た時は結構衝撃的だった。  ただ、何度も見ているうちに、なぜか赤ん坊がみんな同じポーズで寝ていたり、成長過程が面白かったり、一緒に写っている大人たちにも変化があったりして、笑えた。  そうやって、自分にはなかったものを見せつけられると、少しだけいいなと思ったりするのが人間だろう。  だが、自分の幼い頃の写真なんか見たって面白くもないし、真と亮の赤ん坊の頃は彩の実家で見て知っている。  そもそも、それらを飾ったところで、俺の思い出じゃあない。  千堂がやたらと写真を送ってくるせいだ。    写真(思い出)がないことに、漠然と寂しさを感じるのは、彩が千堂のそばにいることも理由の一つだろう。
/258ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5669人が本棚に入れています
本棚に追加