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「つーか、こんな時間にそんなに食ったら、胃もたれすんじゃない? 年なんだから」
真は、栓を開けて冷えたビールで喉を潤す俺を横目で見て、言った。彩が軽く握った拳で、真の頭を小突く。
「真!」
一緒に暮らす前には単なる照れ隠しだと思っていた真の悪態が、最近では素なんだとわかった。彩曰く、俺が怒らないことをいいことに調子に乗っている、らしい。
俺的には、年頃の男なんてこんなもんだろ、くらいにしか思わないが、彩は違うらしい。
半分以上は、俺に母親を取られた焼きもちだと思うけど……。
「冷えた刺身見てたら腹減ってきたなぁ」
わざとらしくそう言うと、チラッと俺を見る。
「『お父さん、ちょーだい』って可愛く言ったら食ってもいいぞ」
「――はっ!? 言わねーし! キモッ!!」
「こら! 真!!」
このやり取りも、定番になっている。
二人がどう思っているかはともかく、俺には楽しい一幕だ。亮がいれば、更に盛り上がるが、さすがに小学生は寝ている時間だ。
それに、亮は刺身を食べない。
いや、タコは食べられるようになったって言ってたか。
「いいからさっさと寝なさい」
彩が鍋の火を止め、蓋を開ける。味噌の匂いに腹が鳴る。
茶碗とお椀が並べられ、箸を持つ。
「真、刺身半分食っていいぞ」
「言わねーよ?」
「わかってるよ」
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