2.父の日のプレゼント

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 ゆったりとした丈の長いワンピースに髪を一つにまとめ、眉毛が半分までしかないスッピンで、手にはキーケースだけが握られている。 「あ、彩――」  今にも泣きそうな表情で、飛び出してきた冨田に、彩が自分の唇の前で人差し指を立て、シーッとして見せた。  それから、千堂母子のいる方を指さす。 「隼。親はね、子供がどんな相手を選んでも心配はするの。同い年でも年下でも。お母さんが知ってる昔のあんたの彼女みたいな、ぽやーっとした子でも、やたら気の強い子でも。一人っ子のせいかあんたはいつまで経っても頼りなくて、そう考えたら凪子さんのようなしっかり者のお嫁さんで良かったとも思う」  俺や彩、冨田にしたら年下で、決して頼りがいがありそうなタイプではないが、客観的に見ると千堂も四十近い立場のある男。職場では部下を持ち、顧客からは信頼を得ている。  だが、親にしてみればやはり子供はいつまでも子供なのだろう。 「お互いにいい大人で、順序はどうであれ結婚すると決めたのなら、親は見守るしかできないの。不甲斐ない息子の姿と、その息子を庇ってくれるようなデキたお嫁さんを見たら、尚更ね。それでも、ここまで蚊帳の外じゃ、文句も言いたくなるでしょう」 「なんだよ、文句って」  千堂が拗ねた子供みたいに不機嫌なのが、声だけで分かる。
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