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「子供たちは?」
「寝てる」と、冨田が千堂の問いに答える。
「そっか」
「じゃあ、私たちは帰るね」と言って、彩が千堂母にお辞儀をした。
「失礼します」
「わざわざありがとうございました」と、千堂母もお辞儀をする。
俺は彩の荷物を持ち、さっさとエレベーターのボタンを押した。
誰も使用していなかったらしく、すぐに扉が開く。
箱に乗り込み振り返ると、千堂母が恭しく頭を下げていて、冨田は小さく手を振っている。千堂だけが泣きそうな表情。
「だらしねぇな」
扉が閉まるなり、呟いた。
「自分には無関係だと思って……」と彩。
「無関係だし?」
「智也が千堂さんの立場だったら、どうする?」
「どうするって?」
「私と母親。どっちの肩を持つ?」
「臨機応変に? その時々で考える」
「それでうまくいけば、嫁姑問題はないのよ」
ともあれ、俺には関係ない。
エレベーターを降りると、俺のスマホが唸った。
取り出してみると、彩の母親からの着信。
「もしもし」
『あ、智くん?』
お義母さんのテンションはわりといつも一定で、高めだ。
俺はスマホを肩と耳に挟み、車の鍵を彩に渡した。
「はい」
『もうすぐ帰って来る?』
「あー……、はい」
『車で出てるんでしょ? 何時頃に着く?』
彩が車のドアを開け、俺は彩のバッグを後部座席に放る。
「えっと……」
腕時計に目をやりながら運転席に乗り込む。
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