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「三十分もしないで着きます」
『そう! それじゃあ――』
「――あ、ちょっと待ってください」
助手席から「もしかしてお母さん?」と問われ、俺はスマホを彩に渡した。
そして、エンジンをかける。
「もしもし、お母さん? 私、今日は帰れることになって――。うん。は?」
『――の有効期限が今日までだったの! もう、すっかり忘れてて』
会話の途中で俺のスマホが車のBluetoothに接続され、スピーカーからお義母さんの声が聞こえだす。
『勿体ないから行こうって真と亮と話してたんだけど、一枚で四人までしか使えないって書いてあるの。お父さんはあんまり食べられないし、智くんと四人で行って来いって言ってるんだけど』
察するに、食事券か何かの話だろう。
俺は彩の耳元で、「どこに行くって?」と聞く。
『彩が帰って来ると思わなかったからさぁー』
「回転ずしの十パーセント引き券だって」と、彩が答える。
その間も、お義母さんの話は続く。
『五人になっちゃうから、やめとく?』
『えーーーっ! 行くって言ったしょー!!』
亮の声が車内に響く。
『お母さん帰って来ちゃうんだから仕方ないでしょ』と、お義母さん。
彩が泊まらずに帰ることになって嬉しいのは俺だけで、どうやら子供たちは寿司の方が魅力的らしい。
「私はお寿司いいから――」
「――お義母さん。俺、お義父さんと留守番してますから、彩と四人で行って来てください」
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