2.父の日のプレゼント

72/93
5577人が本棚に入れています
本棚に追加
/258ページ
 危ない。  彩は気を遣っているつもりだが、俺にしたらお義母さんと子供たちと寿司を食べても、落ち着かない。  一緒に行けば必ずお義母さんが支払ってくれるから、どうしても高いネタは手を出しづらい。  まぁ、結局は遠慮するなと言われて食べるんだけど。  それ以前に、彩とお義父さんが留守番で俺が行くのがおかしい気がする。 『あら、いいのぉ? ごめんねぇ。割引関係なく一緒に行く?』 「俺は仕事の付き合いで食いに行ったりするんで、気にしないでください」 『そうなの? いいわねぇ。きっと回らないおす――』 「――とにかく! 今からそっちに帰るから」 『はいはい。じゃ、出かける準備して待ってるから』  お義母さんから通話を切り、ステレオからは俺のスマホに入っている音楽が流れてくる。 「まだ三時半なのに、早くない?」と、彩が呆れ顔で言う。 「今頃、真が同じこと言ってるだろ」  俺は車を発進させた。 「けど、いいの? 智也、留守番で」 「ああ。どうせ、今日は彩の実家で食わしてもらうことになってたんだし」  今日は俺の出勤に合わせて彩も早めに家を出たから、食事の用意はない。  俺は横目でチラリと彩を見た。 「臨機応変に対応できたろ?」  彩がプッと小さく吹き出す。 「確かに、ね。ありがとう」  今頃の千堂家のことなどすっかり忘れて、俺と彩は笑いながら帰路についた。
/258ページ

最初のコメントを投稿しよう!