2.父の日のプレゼント

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「亮、ディスるとか、意味知ってるの?」 「知ってるよ! 悪口でしょ」 「悪口……と言うような、言わないような?」 「YouTubeで覚えたんでしょ」と、真が冷静に言った。 「亮。どうせ覚えるなら、辞書で意味を調べてから使え」と、智也。 「辞書にディスるなんて載ってる?」  今時の辞書なら載っているだろうか。  だが、亮に買い与えた辞書は小学校に入学する時に買ったものだ。 「ネットで調べなよ」と、食べ終えた真が立ち上がった。 「ごちそうさま」  茶碗を重ねてシンクに運ぶ。 「俺も、ごちそうさまでした!」  亮は勢いよくパンッと顔の前で両手を合わせ、勢いよく立ち上がり、真の後を追う。 「だーかーらー……」  亮の席には、茶碗も箸もそのまま残っている。 「こういうとこだな」と、智也が苦笑いする。 「こういうとこなのよ」と、私が頷く。  亮がそこそこの男になれる日は、まだ先のようだ。 「で? 思い出してニヤケるほどのイケメンに癒されて、今日は一日気分が良かったと」  嫌味たっぷりの言葉に、味噌汁をすすりながら視線だけ智也に向けると、ジトッと不機嫌そうに私を見る視線とぶつかった。  ヤキモチなんだろう。  嬉しいが、優しくされたのは私ではないのにと不思議にも思う。 「そのイケメンが御曹司だったりしたら、完璧だよな。お前が読んでる小説、まんま。『年下御曹司に愛されぽちゃこ』」  ゴフッと味噌汁を吹き出しそうになった。  口から出かかったなめこを、慌てて吸い込む。 「なんで――っ」
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