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「どっかの研修センターで最低限のマナーとか教わって、希望部署で研修してるんじゃなかったかな?」
そう言いながら、彩が俺の食器をシンクに運ぶ。
「企画部には来てないんだよね、新入社員。今年は開発部と研究職の希望者が多かったみたい」
「そうなんだ」
「うん。企画は少数精鋭で頑張ろうって話してたの」
「パートのおばさん、って言われてた彩が精鋭の一人とはねぇ」
「なによ」と、彩が俺をじとっと睨む。
「バカにしたんじゃねーよ。ただ、FSPには痛手だったなと思ってさ?」
「あら、嬉しい」と、少し芝居がかった笑顔。
「間違っても新人を怒鳴って泣かせちゃダメよ」
俺は返事の代わりにため息をついた。
「あ、ね? 来週末ってしっかり休めそう?」
「ん? 何かあったか?」
「父の日。みんなで食事しようってお母さんと話してたの。ちょっといいトコロで」
「わかった」
父の日か……。
今まではカレンダーに小さく書かれた行事の一つでしかなかったのに、自分がその対象なんだと思うとくすぐったい。
「……欲しい物、何かある?」
「ん?」
「父の日」
「ああ……。思い浮かばないな」
「考えておいて?」
「ん」
母の日は俺からと子供たちからとプレゼントしたが、俺が考えるべきは子供たちからのプレゼントだろう。
「因みに、父の日のプレゼントの定番ってなんだ?」
祖母に育てられた俺は、父の日という行事には全く縁がなかった。
「ん~……」と唇を尖らせながら、彩は食器を洗う。
俺はコップに半分残った麦茶を飲み、答えを待つ。
食器を洗い終えてお湯を止めた彩は、手を拭き、顔を上げた。
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