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なんだかんだと言いながらも、俺と顔を突き合わせて飯を食うことを嫌がらないのだから、俺はそれで十分だ。それに、この年頃の男の子と父親の『普通の関係』がどんなものかなんて知らない。俺自身はこの年頃に、まともに父親と顔を合わせたことも、言葉を交わしたことも、飯を食ったことも記憶にない。
それに比べたら、こうして悪態をつきながらも会話をして、一緒の皿を突いてるだけで、十分親子らしい。
俺の、『親子』の定義が他人のそれより緩いのかもしれないが、俺がそれでいいと思っているのだから、いいだろう。
それに、真との関係が良好だと信じうる理由が、もう一つある。
結局、三切れあった中トロは、二切れが真の腹に納まった。
「真、どこの高校狙ってんだ? まだ四月なのに、頑張り過ぎじゃないのか?」
飯の後、ざっとシャワーを浴びてベッドに入った。先に寝ていていいと言っているが、彩は必ず起きていてくれる。そして、毎朝俺より先に起きる。
まさに、妻の鏡、だ。
素直に、嬉しい。
だが、頑張り過ぎていないか、心配にもなる。
「どこでも行けるように、だって」
「……すげぇな」
「……」
彩がうつ伏せて枕に顔を埋める。
「なした?」
「……なんか、ムキになって頑張ってるみたいで……」
「なんで?」
「わかんないけど」
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