1.妻に贈る、母の日

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 実は、彩抜きで子供たちと三人で半日も過ごすなんて初めてのことだ。  平日は朝しか顔を合わせないし、休日も真は塾、亮は野球があるし、なくても友達と遊びに行ったりする。  一緒に暮らし始めてまだ一カ月も経っていないから仕方がないが、子供たちとじっくり顔を合わせる時間を持てていなかった。 「あ、コーヒーどうぞ。セルフで悪いけど」 「いえ。いただきます」  俺はバリスタのスイッチを入れて、食器棚から黒のマグカップを取り出した。お義母さんが俺用にと用意してくれたもの。 「あ、お父さんもコーヒー飲む?」 「ん」 「智くん、お父さんにも淹れてやって?」 「はい」 「ごめんねぇ」  お父さんは相変わらずバリスタを使えない。  俺はホットコーヒーを二杯淹れた。  お義母さんが取り分けている間、俺は居間でクロスワードパズルを解いているお義父さんに協力した。  暇つぶしとボケ防止にと、お義父さんはクロスワードパズルとナンプレをしている。時々、真も手伝って、雑誌の懸賞に応募したりしていると聞いた。  お義父さんは中卒で、いわゆる団塊の世代。集団就職で田舎から札幌に来たと聞く。だから、知識があまりないのは仕方がない、と言ってわからない問題は片っ端から俺に聞く。真がいる時は真に聞き、それでもわからない問題は、真がスマホで調べているらしい。  考えて解く、よりも、完成させる、ことが目的になっているようで、お義母さんと彩が「ボケ防止になってない」とぼやいていた。
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