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結果的にはセーフで、小暮さんが手続きを終えて事務所に挨拶に来た時には、私はさもずっといましたよって顔で出迎える事が出来た。
「小暮さん、お疲れ様でした」
「んー、早いもんだねぇ」
白くなった髪の隙間に指を突っ込んでかきながら、小暮さんはしみじみそう言った。
「お前も年とったな」
「最後の最後に何言うんですか。もぅ」
私は思わず小暮さんの肩を叩いた。
楽しげに笑う小暮さんをもう見る事もなくなるのかと思うと、寂しさがこみ上げてくる。
「もっと良い事言ってくださいよぉ……グス」
やべ、泣きそう。
「入ってすぐの頃を覚えてるよ。色々厳しくしたけど、今はもうすっかりいい先輩になったなぁ」
頑張ったなぁ、と言いながら私の腕をポンポン叩いてくれる小暮さん。
だから泣いちゃうよ、小暮さん。
「小暮さんの……おかげです……」
「俺は最初の二年だけだよ。後はお前が頑張ったんだ」
「ありがと……ございます……」
「泣くなよ」
「だって寂しいんですもん」
「俺だって寂しいよ。お前や大住に会えなくなるんだもんなぁ」
「じゃあ……ご飯……連れてってください」
「もちろんだとも。じゃあ、またな」
小暮さんは私の前にその大きな手を差し出した。
私はその手をしっかり握った。ごつごつした大きな手。すっかり人の良さそうなお爺ちゃんになっても、ここは変わらない。
こうして、私と小暮さんの最期の会話は終わった。
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