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かぐや姫が赤子であったのは一瞬のことで、三ヶ月ほどで十二、三歳ほどの容姿になり、一年ほどで立派な成人女性の姿になった。それから外見の変化はほとんどなく、輝くような艶のある黒く長い髪の毛、その黒髪とは対称的な白い滑らかな肌に、潤った大きな瞳は見つめられると身動きが取れなくなるほどの魅力があった。
かぐや姫は月ですでに百年以上生きており、容姿も成人してからはほとんど変わらない。地上に落ちてからもその月での容姿まで成長したあとは変化がない。
かぐや、という名前は翁がつけてくれたと思っていたが、御室戸斎部の秋田とかいうわけのわからない男がつけたものだと聞いてがっかりしたのを覚えている。さすがに赤子のころの記憶はなく、かぐや姫が月にあった井戸から落ちたことを思い出したのも、一年ほど経ってからだった。
翁と嫗にはたいそう感謝している。竹から出てきた気味の悪い赤子を何のためらいもなく大事に育ててくれた。恩を返すためにできる限りのことはしてあげたい。
しかし、かぐや姫はいずれ月に帰らなければならない身。いつ迎えが来るのかもさっぱりわからなかったし、もしかしたら誰も迎えになど来ないのかもしれないという疑念さえ抱いていた。
そもそも井戸を覗いて落ちたのは自分の責任であるからどうしようもない。一生地上で生きることになっても致し方ないことだと思っていたが、結婚する気はさらさらなかった。結婚しても相手はさっさと死んでしまうし、その後も自分は何百年も生きなくてはならない。そんなのはイヤだったので、翁と嫗が亡くなったのならすぐに姿をくらます予定であった。
「何度も申しておりますが、結婚する気はございませぬ。月に帰らなければならないのです」
「そうはいっても、月から迎えなど来ぬではないか。そうこうしているうちに、わしもばあさまも死んでしまう。安心させてはくれまいか」
翁は何度も何度も何度も、そう言ってかぐや姫に懇願した。
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