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漆黒の空に幻のようにポッカリと浮かぶ朧月を見上げながらかぐや姫はため息を漏らした。
どうせ月に帰らなければならないというのになぜ地上に落ちてしまったのか。理由は簡単で、地上を覗くことができる、時の井戸に吸い込まれるように落ちたことが原因だったわけだが、落ちるのは簡単であっても戻るのには相当の時間を要する。月のものに連絡を取ることもできない。
かぐや姫がいなくなった時点で井戸に落ちたことはすぐに向こうでもわかっているだろうが、迎えに来るのにも最低数年、いや数十年だろうか。かぐや姫の身近に井戸に落ちたというものがいなかったため想像しづらいが、噂では聞いたことがあった。今まで地上に落ちたことがあるものは何人もいたが、戻ってくるまでにそれなりの時間を要したと。
月での数十年は大したことはないが、地上では相当なもの、価値のある時間であると聞く。地上人は四十年、五十年ほどしか生きられない。月人は数百年は生きる。長いものでは千年以上も少なくなかった。
だからどうせ月に帰らねばならない。地上にいてもただの化け物になるだけだ。
「かぐや姫よ、どうか嫁いではくれまいか。婿をとってもよい。わしもばあさまもいつ死んでもいい齢。お前のことが心配なのじゃ」
そう涙ながらに訴えるのは竹取の翁。なぜ竹取の翁と呼ばれているかというと、竹を取って籠や竹細工を作り、それを売って生活していたからだ。
しかし今となってはその必要もない。約二年ほど前に竹を取りに山へ行き、そこで光る竹を見つけた翁は、その中でまだ赤子であったかぐや姫を見つけた。不思議なことにその周りの竹の中に金塊が見つかり働く必要がなくなったというわけだ。その金塊も一度や二度ではなくしばらくの間続き、結局翁は働かなくとも自然に大金持ちとなった。
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