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クイズキング、花に挑む
回答テーブルに両手をついた俺に、観客からの熱視線が降り注いでいた。体には変な汗。のどがひどく渇いていた。
2mほど離れたもう1つのテーブルでは、対戦者の飯田が涼しげな様子で立っていた。お互いに相手の方はほとんど見ない。この番組で集中力を切らすようなことがあれば、たちまち他の猛者にやられてしまう。俺達がいるのはそういう場所だった。
『オタワ、正解。カナダの首都。クイズキング野村、孤高の天才飯田、両者譲らず20個を突破です! 続けます』
『アムステルダム』
『正解、オランダです』
『メキシコシティー』
『正解です』
年に2回しかないハイレベルなクイズ番組、頂上クイズ。自宅のイスで前回大会のことを思い出しながら、俺は読みかけの本をパタリと閉じた。
あの時のことはよく覚えている。最終決戦に残った俺と飯田は一進一退で決着がつかず、首都を挙げていくサドンデス形式の延長戦に突入した。あの緊張感、高揚感。30過ぎの同年代のせいもあり、メディアにやたら因縁のライバル扱いされて少々うんざりしているが、飯田と対戦するのは文句なしに楽しかった。
結局最後はそれまでの疲労が蓄積していたのか、俺が同じ答えを2回言ってしまって飯田の優勝となったのだが。それ以来、飯田とは会っていない。俺達が顔を合わせるのは頂上クイズの時だけなので、次に会うのはまた数ヶ月後だ。
ところが、どうやら俺は今、現在進行形で飯田の挑戦を受けているようなのだ。
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