第三十六話:

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ベーオウルフにとって、この戦いなど、生誕ついでの余興のようなものなのだ。 それは、裏を返せば、これだけの面子を相手にしてなお遊びと割り切れるほど、圧倒的な実力を有しているからに他ならない。 その力の一端は、ヴァイスフェンサーの傍らに立ってきた、人類最強戦力の一角が駆る、3番目の凶鳥に刻まれた傷痕からも明らかだろう。 『………状況の説明がいるかい?』 『不要だ。どこぞの愚図弟子のように落ちていたわけではないのでな。』 本来のスペックの半分にも満たない実力しか出せなかったレイブンMk‐Ⅱとは異なり、Mk‐Ⅲは万全の状態だったのが幸いした。 機体は大ダメージこそ負ったが、コックピットへの衝撃は最低限に抑えるよう、すんでのところで機体を捩れたのである。 セレーネは、この1分と少しの間、アドレナリンの操作による自身の止血、機体のセルフリカバリーを平行させつつ、周囲の状況把握も怠ってはいなかった。 己という指揮官を無力化されつつも、アザトースの手勢は奮闘していたが、先ほど全滅を確認。 セレーネ自身も、既にベーオウルフが余りにも規格外の怪物であることは理解していた。 そして、現在この怪物に対する有効な一手は、退却一択。 そのためには、手練れとの連携が必要不可欠だろう。 『彼奴に仕掛けた後、即座に撤退より、互いに助かる道はない。最初から全力でゆく。ついてこれなければ、その場で死ね。』 『ッ………言ってくれるな………!!』 羽ばたく凶鳥に続き、白き剣士も空に舞う。 既に両機共にトップスピードと、並のパイロットなら反応すら叶わない。 『知っているぞ。セレーネ・V・ブランシュタイン。なるほど、最強の害虫(ムシ)というのも頷ける。』 レイブンMk‐Ⅲより放たれる、バルカン、フォトンライフル、ファングスラッシャーの連撃が、アルトアイゼンアビスを襲う。 ベーオウルフは、これらを3連ガトリングガンを使い、まとめて撃ち落としていった。 『本命は、こっちか?』 そして、完全に死角をついたはずのステルスブーメランの奇襲も、インフェルノホーンに蓄えられたエネルギーを解放しただけで弾き飛ばしてしまう。 読まれていた。 否。 既に、攻撃を見知っていた故に、対応できたといった風か。 『あの者達の記憶がベースになっているというのも、本当のようだな。しかし、知っているというだけで攻略できるなどと、みくびってもらっては困る。』 レイブンMk‐Ⅲは、間髪入れずにメガプラズマカッターを抜き去り、凄まじい速度でアルトアイゼンアビスとの距離を詰めてゆく。
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