第三十六話:

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『斬り捨ててくれる。』 そして、レイブンMk‐Ⅲにとっては会心、アルトアイゼンアビスにとっては痛恨となり得る斬撃が振り下ろされようとした、まさにその時だった。 Mk‐Ⅲがメガプラズマカッターを握る手に、凄まじい衝撃が走る。 『なにッ………!!』 まただ。 初撃と同じく、見ることはもちろん、音も、気配すらもない攻撃。 腕こそちぎれはしなかったが、機体の態勢は大きく崩れ、攻撃は不発に終わってしまう。 『おのれ、面妖な攻撃を………!!』 『ふ………憐れだな。』 『何………!?』 『最強などと謳われていようが、これが貴様ら害虫(ムシ)の限界。源理の力を知覚すらできぬ下等生物など、ただただ憐れだ。』 『………!!』 何故かはわからない。 セレーネは、本能的にガードを取った。 直後、レイブンMk‐Ⅲを激震が襲う。 『ッ!!』 恐らくは、先ほどの見えない攻撃。 単発ではなく、連射も可能だというのか。 『クッ………』 ガードがこじ開けられる。 耐えきれない。 レイブンMk‐Ⅲは、たまらず急速後退にて間合いを開けた。 人類最強戦力が、なすすべなく、離脱を選ばざるを得なかったのだ。 『………!!』 ヴァーシュの判断は早かった。 ヴァイスフェンサーを最大戦速にて、アルトアイゼンアビスとの距離を一気に詰めてゆく。 『どうせ見えない、避けられないなら、撃たせる前に手数で押しきる!!』 ブリューナクランチャーをAモードに、戦斧の剛撃が振るわれる。 アルトアイゼンアビスは、これをリボルビングクラスターのステーク部分で受け止めた。 あのセレーネを退かせるほどの怒涛の攻撃の後、僅かだが生じた一瞬の隙を、ヴァーシュは見逃さなかったのである。 『我を相手に、近接戦か。無謀だな。』 『やってみなければ、わからないさ。』 軽量級の速度を殺さずに放たれる、重量武器の一撃、一撃。 アルトアイゼンアビスは、余裕を持ってこれを捌き続ける。 『中々いい攻撃を放つ。腕を上げたのだな、ヴァーシュ・ブロウニング。』 『ッ………!!』 記憶という情報を記録するのが脳なら、シンヤ・ナンブの肉体を奪ったベーオウルフが、己や教導隊のことに詳しいのは理に叶っている。 これは、ただの現象。 ヴァーシュは、それを理屈ではわかっていたはずなのに。 『黙れよ………!!』 その声で、その容姿で、「親友」しか知り得ない情報を口にされるのが、何よりも許せない。 憤怒。 身を灼くかのような怒りが沸き上がってくるのを、抑えることができなかった。
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