第三十六話:

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『ッ………!!』 紙一重、なんとか回避には成功したが、コックピット内に警報が鳴り響く。 『エネルギー残量、10パーセント以下。機体損傷度も、80パーセントオーバーか。』 実質戦闘不能である以上、撃墜こそ免れたが、それも時間の問題。 ヴァーシュもセレーネも、口にこそ出さないが、己でも驚くほど冷静に受け入れることができた。 完全敗北である。 圧倒的などという表現では到底追いつかない、いっそのこと馬鹿馬鹿しくなるくらい、ベーオウルフは、アルトアイゼンアビスは強すぎたのだ。 『ふむ。どうやら、雑魚害虫(ムシ)共の駆除も、粗方済んだようだな。』 セレーネが率いていたアザトースの部隊同様、各国の精鋭らも墜とされるか、撤退したのだろう。 あらゆる方向から聞こえてきていた爆音も既にほとんどなく、手の空いたツークンフト隷属種らが続々と集まってくる。 『囲まれたか。』 『クッ………』 つまり、これで撤退の目も限りなくゼロに近い。 後は、一思いに潰されるか、嬲られながらジワジワと削られるか。 どの道、「死」がすぐそこまで迫ってきている。 『『………』』 『この期に及んで、闘志は消えていないか。』 『無様に泣き叫び、命乞いでもすれば満足か?』 『誰が、お前の望むことをやってやるかよ。クソッ………!!』 未練はある。 無念も禁じ得ない。 しかし、余りにも絶望的過ぎる状況に、2人は最後の意地にと虚勢を張るくらいしかできなかった。 『ただのやせ我慢か。いたぶるのも面倒だし、速やかに叩き潰し』 ベーオウルフが言いかけた、その時だった。 辺りを覆うかのように、凄まじい空間震動警報が、レイブンMk‐Ⅲとヴァイスフェンサーのコックピット内に響き渡る。 『………!?これは………!!』 『嘘だろ………!!』 驚愕に目を見張る人間達の目線は、己が真上の空へ向けられ。 『ほぅ………』 ベーオウルフの視線も、自然に同じ方向へ向けられるのを、ヴァーシュは見逃さなかった。 つまり、これは。 この、余りに巨大なクロスゲートが、突如として南極上空に現れたのは、ベーオウルフにとっても計算外、イレギュラーなのだとヴァーシュは気づく。 『まさか、この災厄の門が起動するとはな。誰の仕業かわからんが、よほど貴様らに死んでほしくないと見える。』 『何を言っている………!?』 『特に意味はない。なに、今の発言も、我の予想に過ぎん。忘れていいぞ。』 しかし、ベーオウルフに一切驚いた様子はない。 それどころか、この状況を楽しんでいるような様子すらある。
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