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はじめてのケンカ
教室へもどると、メイちゃんとハルトくんがおしゃべりをしていた。
ふたりは笑い合っていて、たまに、メイちゃんが言ったことに対して、ハルトくんが耳まで真っ赤っかにしてなにかを言い返している。
メイちゃんは、そんなハルトくんを見て、なおさら楽しげに笑っていた。
せっかく晴れた心が、とたんにまたくもってくる。
教室のとびらの前で固まってしまったひまりを見て、ユキオくんも、メイちゃんとハルトくんのほうへ視線を投げた。
そして、ぴゅうっ、と口笛をふくと、ふたりのほうへ、たたたーっ、とかけていく。
「なになにっ、おふたりさん。ずいぶんと仲良しだねー!」
ユキオくんは、からかうようにしてハルトくんのうでをひじでこづいた。
「はあ? なに言ってんだ、柊」
「そうよー。ハルトくんと仲良しなんて、いやよ」
ふたりして、本気でいやそうな顔をする。
だけど、ひまりにとってはそれすらもじゃれあっているように見えて、心のもやもやはますますこくなっていった。
メイちゃん、わたしとハルトくんのこと、お似合いーなんておだてておきながら、本当は自分もハルトくんのこと、好きなんじゃない? それで、ハルトくんも自分のことを好きだって気づいてるから、わたしのことをおうえんしてるふりして、きっと心の中では笑ってるんだ。きっとそうだ。
真っ黒な雲のような感情が、ひまりの心の中をもくもくと支配していく。
それに、ユキオくんもユキオくんだ。あんなふうに、ふたりをからかうなんて。ほんっと、デリカシーってもんがないんだから。
こうなったら、なにもかもに対していらいらとしてくる。
さっき、ひまりの心を元気にしてくれたユキオくんにまで、ひまりはとけとげしい気持ちになった。
教室に入って、席につく。
ひまりは、五時間目の社会の準備をはじめた。
「あっ。ひまりちゃーん」
メイちゃんが、ひまりの存在に気づいて、わたがしの声でひまりを呼ぶ。
いつもならかわいいと思える声も、いまのひまりにはぶりっ子みたいに聞こえて、とてもしゃくに障った。
「ひまりちゃん、もどってたんだね」
「……うん」
いまは話しかけないでほしいのに、ごきげんなメイちゃんの様子に、心の中にふつふつとあわがたつ。
「先生、なんの用だったのー?」
そう聞かれたしゅんかん、その言い方がまるで「先生に呼ばれたなんて、どうせうそだったんでしょー」と責められているみたいに聞こえて、ひまりはかっとなってさけんだ。
「メイちゃんには関係ないでしょっ」
思いのほか、とても大きな声が出てしまって、クラスじゅうがしんと静まり返る。
「あ……。ごめんね」
みんなの前でとつぜんおこられたりしたからか、メイちゃんははずかしそうに顔を真っ赤にして、それから席についた。
「どうしたんだ? ひまり」
ハルトくんが、わざわざひまりの席まで来て、そう声をかけてくれる。
けれど、いまハルトくんの顔を見たら、なんだか泣き出してしまいそうで、ひまりはハルトくんのことを無視した。
ハルトくんが、小さく息をつく。
そして、今度はメイちゃんの席のほうへ向くと、
「だいじょうぶか? 木村」
と、とても優しい声で聞いていた。
ユキオくんが、となりの席から気づかわしげにちらちらとひまりを見ているのがわかる。
けれど、ひまりはユキオくんのことすらも、無視をした。
けっきょくこの日、ハルトくんともユキオくんとも、メイちゃんともいっさい口をきかず、ひまりはにげるようにして学校をあとにした。
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