僕がニートを卒業しようと決めた日

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*** 歯磨きをし、布団に入ろうかとしていると、携帯電話がまた鳴りはじめる。 (もう死んだん!?) 僕は急いで携帯電話を握る。  「どしたん!?」  「いやぁ。あんなー。お前明日かーはん病院につんでくるだろ?」  「うん」  「明日は別に来てもこんでもどっちでもいいぞ」  「なんで?」 不思議に思い聞き返す。  「なんや、薬入れたらすぐに寝てしもてよ」  「おお。うん」  「寝てしもーたら、ほんまに寝っぱなしじゃわだ」  「えー?」  「看護師が入ってきても別に起きーへんし、今やってこれ病室で電話しよんぞこれ」  「えー!?ほんで起きーへんの!?」 思わず布団の上で体勢を変える。  「おー。なんやたまーに目開けるよーにも見えるけど、こんなん一緒におってもしゃーないわだ」  「へぇーーーー。えーーー」  「ほなけん明日かーはん連れて来るんだったらなぁ」  「うん」  「様子だけ見てちょっとしたらお前ほのままかーはんつんで帰れだ。ほたらとーはん仕事終わったらそのまま病院来るけん」  「え!?あんた明日も泊まる気!?」  「おお」  「今より死んでからのほうが忙しーなるんやけん、家で寝たらわ?」  「いーや、かんまん別に」  「ほんなとこで寝れるで?」  「寝れるわだー別に。とーはんどこでも寝れるけん」  「えーーーー」 「なんなだ」 「薬入れるって言うんは、どーやって入れたん?点滴?」  「いやなんや看護師が注射器よーなん持って来てな」  「注射器!?」  「おー。ほんでなんか機械よーなとこに注射器はめ込んだらだんだんこー。注射するように注射器が縮んでいってなぁ」  「おぉ」  「ほったらお前、気がついたらもー寝とんぞ。ばー。あっちゅーまでびっくりしたわだ」  「ほーなん」  「ほんまに寝たきりの人よーなわ」  「えー」  「ほなけんまぁお前や朝来たら昼には帰れよ」  「うん。ほんで兄ちゃんはどないするん?」  「どないするって何がなだ?」  「兄ちゃんには、ばーが入院しとることも言うてないでー。死んでも言えへんの?」  「あいつわー。なんや忙しそうにしとるし言わんでいいんちゃうんー」  「あー。ほーなん」  「ほなけんまぁ、今はほんなところ」  「あぁ、わかった」  「今もこんだけ喋いよるのにまったく起きーへんのぞ」  「へえーえー」  「まーほなかーはんにほー言うといてくれよ」  「わかった、ほな」 ***  「かーはーん」 電話を切ってすぐに僕は母親の部屋に行き、話しかけた。  「なに?」 不思議そうに体を向ける母親。  「明日病院行くでー」  「うん」  「とーはんが明日はちょっと様子見るだけですぐに帰ってもいいって言よるわ」  「な、なんで?」  「薬で眠らしたんよー。ばーを」  「え!?薬!?ほれって何!?」 丸く大きな目をさらに大きくさせながら聞き返す母親。  「セデーションや言うてな。薬で眠らせることをほない言うんやけど」  「うん。薬で眠らせるって言うんわ?今晩だけの話?」  「いや、ずっとよ」  「ずっと!?」 驚いた顔で言葉を返す。  「そうそう。息ができんでせこそーなでー」  「うん」  「ほなけん意識失わせたほうが楽に死ねるんちゃうかって、相談しよったんよ」  「ちょっ、ちょっと待って!ほれって安楽死ってこと!?」  「まぁ、ほんな感じ」  「え!?ほなもうばーさん死ぬん!?」  「いやー。ほれはわからんのよー」  「え!?」 驚いた顔が不思議そうな顔に変わる。  「薬で眠らすことをセデーションて言うんやけどな、ほれを今日の夜にしたんやけど、ほれはしたけんてすぐに死ぬわけではないんよな」  「ほんで?」  「いつ死ぬかって言うんは、ほれは医者にもわからんのやって。ほなけどまぁ、安楽死させようとしとんは、まぁ、ほんなとこ」  「ほんで!?今ばーさんは寝とるっちゅーこと!?」  「そうそう。なんやさっきとーはんから電話あったんやけど、とーはんが真横で電話しよっても起きーへんらしいわ」  「えーーーーー。ほなほれ、植物人間よーになっとるってゆーこと?」  「いやー?どーなんだろ?わいも見てないけんちょっとよーわからんのやけど」  「植物人間や言うたらほれ、死んだひいじいちゃんがえっとほれで入院しとったじょー」  「えー。ほーなん」  「ほなけどひいじいちゃんは、何年も生きとったけど、ばーさんもで?」  「いや?何年もは、生きーへんのとちゃうん?ちょっとわかれへんけど」  「えー。ほーなんー?植物人間でえっと生きられても、世話に困るでーなー今度。かぁちゃんが何年も世話しよって大変そーだったん覚えとるじょーわたしー」  「いや、わいの予定ではすぐに死ぬはずなんやけどー。なんや医者に聞いたらすぐ死ぬわけではないけど、安楽死できんかって聞いたら、セデーションや言う方法があるや言よって、ほれを今日したってことしかまだわいもわかれへんのやけど」  「ふーーん」  「かーはん喪服。えっと着てないだろ?また暇な時に出しとったほうがいいよ」  「え!?ほんなすぐ死ぬん!?」 納得していた顔がまた驚いた顔に変わる。  「いや、わからんけど。わいこないだスーツ買いに行ってきたよ」  「えーーーーーー。なんぼしたん?あんたお金持っとったん?」  「とーはんに金もーたんよ。6万のスーツが3万になっとってな。ほれにした」  「へぇえー。どこでな?」  「はるやまで買ったよ」  「ほーなん。私、黒あうかなー?ちょっと太ったけんなぁ。ほれ。ひいじいちゃんの法事から先、着てないでぇ」  「んー。またほな明日にでも出して着てみなだ」  「ちょっとほんでほれ、じーさんにわ?説明せんでもいいん?」  「えーーーー。いいだろー。アホやけん説明しても理解できんだろー」  「ほーなん」  「セデーションがなんやかんや言うても理解するはずないでー。明日の朝起きたらほない体調よーないとだけ言うとったらいいんとちゃうん」  「ほーでぇ。ほなほないするでぇ?」  「ほんで兄ちゃんには、ばーが死んでも言えへんってとーはんが言よったわ」  「ほーなん!?ほなあいつは、死んでももんてこささんのやな?」  「んー。とーはんがほない言よるけんほんで良いんちゃうん?」  「ふーん」  「ほなまぁ明日予定通り9時に家は出るけど、まぁ、どんなんか様子見てほんで帰ってこーだ」  「うん。わかった」
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