僕がニートを卒業しようと決めた日

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*** 僕は、見ちゃいけないと思いとっさにトイレに立ち上がった。 はじめて見る光景に、動揺した。 母親の、母親。 ばあちゃんが、父親に言葉をかけた時だ。  「晃君お疲れ様。しんどかったなぁ」 と、声をかけたその次の時間の経過からだ。 元々黒い顔を、赤黒くして、父親の目元に。 光。 流れ落ちる物質を確認した。 はじめて見る、父親の涙だった。 母親の涙は、はじめて病室で見た。 父親の涙は、はじめてさっき見た。 見たことのない光景に、戸惑うしかない。 親の涙は、何故だか見たくない。 何故だか複雑な気持ちにさせる。 トイレで立ちながら股間から流していると、何故か目と鼻からも流れそうになる自分に、クッと力を入れて水で顔を洗う。 (はよ死ね。) 毎日思っていたはずなのに、体からは矛盾した物質が出ようとする。 僕の体は、一体どうしてしまったのだろうか。 *** 僕は、泣かない。 泣いたことがない。 子供の頃は年中泣いていたが、中学生になってからは、2度しか泣いたことがない。 彼女をフッた時と、彼女にフられた時だけだ。 成長してから泣いたことがあるのわ。 元々感情を表に出すタイプじゃないから、喜怒哀楽をそんなに表現しない。 だからそんな僕が、涙を流すなんて、よっぽどのことだ。 それなのに、死んでほしかった人が死んだはずなのに、何故だか出そうになる矛盾した涙。 落ち着いてから畳の部屋に戻ると、1度しか見たことのない顔の親戚が黒い服を着て畳の部屋にいた。 父親とじーは、今日はこの部屋で寝るらしい。 僕は母親を連れて家まで戻り、次の日の朝に母親を連れて葬儀屋まで車を走らせた。 広くはない部屋に10数人の身内が集まり、お坊さんがお経を読む。 涙を出しながらすすり泣く人が1人発生すると、周りに感染する。 僕は必至に感染しないように黒い数珠を握りしめた。 急いで買った100円均一の数珠は、ちゃっちくて、糸が切れてしまわないかとドキドキした。 棺に横になるばーの枕元に花を置くときには、ほぼ全員が涙を流した。 最後のお別れ。 と、言う独特な空気感は、はじめて味わう空気だった。 とてもじゃないけど、快適な空気だとは感じなかった。 僕はお別れの花をばーの左耳の横に1輪置いて、手を合わせて目を閉じた。  「プーーーーーーーーー」 また黒い車に乗り込んだばーは、長いクラクションとともに出発した。 ばーを追いかけるようにマイクロバスに乗り込んだ僕達は進み続け、バスに乗って焼き場に到着すると、見慣れない光景がまた広がり。 棺に入った、もう苦しそうな顔をしていないばーに皆で最後のお別れをする。 人が焼かれているのを待つのは、はじめてで。 焼きあがると、さっきまでのばーが、骨になっている。 人の骨を見るのははじめてで、黒い灰に混じって、白い骨がある。 白い骨を皆で箸渡しをして、骨壺に骨を入れる。 僕が慣れない環境に圧倒されている間も、慣れない体験は次々に襲い掛かってきて、慣れない感情が何度も込み上げた。 死んでほしい人が死んだはずなのに、悲しみすら、込み上げた。
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