僕がニートを卒業しようと決めた日

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***  「あの、贈与税が1番税金が高いんですよね?」 ノートのような物を閉じた司法書士さんに質問する。  「そうですね。生前贈与が税金わね」  「ほな土地はやっぱり名義変えたら税金けっこうとられるんですか?」  「いや、いま見たんですけどこれぐらいやったら相続時精算課税制度使ったら税金かからんと思いますよ」 (なんやほれ。)  「そうぞくじせい?」 聞き取れなかった僕は聞き返す。  「相続時精算課税制度です」  「そうぞくじせいさんかぜいせいど?」  「2500万円までは税金かからんような制度があるんでねー。来年申告行ってもろたら大丈夫ですよ」  「え!?そうなんですか!?」  「うん。土地はこれ。名義変えれますね。ただ」  「なんかあるんですか?」  「ご本人様に来てもらってね。実印押してもらわんと裕也さん1人だけではちょっとねー」  「本人って、じーと父親両方ですか?」  「そうですね」  「ほたらまたどこかにはんこ押しに行ったり書きに行ったりせなあかんのですか?」  「いや、それはね、ここの事務所でやってもろたら出しに行くのは僕が出しに行くんでね」  「あ、そうなんですか」  「あとそれと、遺産ですね?」  「あ、はい」  「遺産となると、法定相続人が晃さんと文子さんになるんやねー。えーっとそれをー」  「全部父親に行くようにしてもらいたいんです」  「ちょっとねー。全部わ。遺留分減殺請求権とかあるんで無理かもしれませんが」  「え?いりゅうぶん?」 もう1度聞き返す。  「遺留分減殺請求権って言うのがあるんですわ。法律で決められたこの人には最低何%は、遺産渡さないとダメですよって言う」  「え!?ほなお金取られるんですか!?」  「いや、まーねー。そこを何とかしようとは思うんですけど。公証役場ってご存知ですか?」  「え、えーっと。ほれネットでは見たんですけど、普通の役場と何が違う場所なんですか?」  「公証役場って言うところがあってねー。そこでおじーさんに、公正証書遺言って言うのを書いてもらうと、遺言書としては1番効力が強いんです」  「あーーーー。なんかネットで見ました!公正証書遺言って言うのはそこで書くもんなんですか!」  「はい。でもそれもねー。裕也さんでわ……」  「え!?」 僕は驚き聞き返す。  「それもおじーさんとお父さんに行ってもらわないとねー。できないんですわー」  「え。そうなんですか」  「いったんね、家に帰ってお父さんとおじいさんと話して、また連絡もらえますか?」  「はい」  「ほんで、土地のほうは2人が揃ったらいつでもここでできるんでね。またお2人にもここに来てもらうように言ってもらえますか?」  「はい」  「そしたらその時にまた公正証書遺言のお話もしますんでね」  「あー。はい」  「ほしたら一応、権利書と 改製原戸籍返しときますね今日わ」  「あ、わかりました」 僕はカバンからファイルを取り出す。  「今度来るときは 改製原戸籍はもう必要ないんでね」  「はい」  「若いのに、ずいぶんとしっかりされてますね」  「いやいやほんなことないですよ」 僕は笑いながら言葉を返した。  「失礼ですけど今お仕事って何されてらっしゃるんですか?」  「いやっ、今は何もしてないんです」 後ろめたさを感じながら、苦笑いで言葉を返す。  「あっ、そーなんですか。なんかきっちりしとるから、こんな仕事向いとるかもしれませんね」 ヤクザのようなパリッとした顔が、今日1番の笑顔を見せた。  「いやいや、僕頭悪いんで無理ですよ」 僕は照れを隠しながら冷静に答える。  「そしたらまた電話もらっても良いですか?」  「そうですね、帰って父親に話して、来れそうな日が決まったら電話します」  「ほしたらまた、連絡お待ちしてますんで」  「あ、はい、お世話になりました」 僕はカバンを持って立ち上がる。
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