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家に帰ってすぐにじーの部屋の扉を開けた。
「じー」
「おおう?」
椅子から振り向いた。
「あの隠し子のなー」
「何?なにしご?」
「隠し子のな」
「何?なにしごって?」
お菓子をポリポリと噛みながら何度も聞き返す。
「隠し子!」
僕は、大きくゆっくりと言葉を出す。
「あれわー隠し子ちゃうって言よるだろお」
(こいつほんま。)
「家の土地じーの名義でー」
「家って、この家のか?」
「そうそうこの家の土地の名義よ」
「おお、まだ晃に変えてないけんわしのまんまじょ」
「ほの名義をとーはんの名義に変えたいんよ」
「なんでな?」
(あーめんどくさ。)
「よそに子供がおるだろ?ほの子供にここの土地取られんために変えたいんよ」
「ほんなん、取りにや来るかだ」
「いやいや、ほれがじーが死んだときにここの土地の半分をくれって言いに来るんよたぶん」
「なんでほんなんここにや来るぞ?ふぉっふぉっふぉっ」
食べかけのお菓子を机の上に置きながら笑うじー。
(ほんま腹立つ。)
「じーが死んだらじーの遺産は、とーはんとよそにおる子供で半分することになるんよ」
「なーんじゃぁほんなんわしが死んだって黙っとったらわかれへんわだ」
「いや、ほれがもう嘘やつけん時代やけんな今」
「なーんじゃー黙って晃の名前に変えたら良いんでないかだ。なんでバレるかだ」
また笑うじー。
「いやいやほなけん、死ぬ前にちゃんとしとかなじーが死んだときにわいやとーはんが困るけんな」
「なんで困るんなだ。わしやほない金持っとれへんわだ。ほのまま晃がもろたらほんで済むわだ」
「ほなけん、じーが死んだらよそに腹違いの子がおるけんほんな簡単にはいかんの」
「いけるわだぁ。ほんなん黙っとったらぁ」
面倒くさそうに返事する。
「ほなけんいけんて言よるだろ。とりあえず土地の名義を変えたいんじょ」
「ほんなん変えるや言うたってどないして変えるんなだ」
「なんか司法書士に頼んだらいけるみたい」
「ほんなんお前、ほんなとこに頼んだら金がよーけいるんちゃうんかだ」
「なんぼいるかわからんけどじーが死んだときに何百万も払えって言われるよりマシじゃわだ」
「ほんなん、誰が何百万も払えや言うぞ?」
「ほなけん!よそに子がおったらほーなるんよ!さっき司法書士の事務所行って聞いて来たん!」
腹立ちまぎれに少し大きな声が出る。
「ほんなんお前、事務所行てきたら金いったんか?」
「今日は金いってない。とりあえずじーの土地の名義とーはんに変えるけん」
「ほんなん勝手にするったって、晃はかんまんて言よんかだ」
「とーはんにはまた帰って来たら説明する」
「ほない、ここの土地や価値ないぞ」
「あるんじゃって!!」
「ほーかぁ?こんな田舎の」
「とりあえず土地の名義変えてよ!」
「晃がかんまんて言うんだったらわしはかんまんわだ。ほなけどお前、税金やかかれへんのかだ?」
「多少かかってもあとから隠し子と揉めるよりマシ」
「ほなけんあれは隠し子でなしに」
「よそに子供がおったら遺産で揉めるんやけんな」
「なーんじゃーほんなん揉めへんわだぁ」
「じーはほんときもー死んでおらんだろ!あとから裁判になったりするかもしれんのやけん」
「裁判にやなるかだぁ。ほない金持ちでもないのに」
「金がないけん裁判になるんじゃわよ」
「なるかだぁ」
「とりあえず土地の名義変えるけん。ほんでじー。今貯金なんぼ持っとんな?」
「わしかぁ?」
「うん」
「ほないないぞわし!使うけん」
「なんぼあるかわかるん今?」
「カラオケやー行たらーコーヒーのチケットや買うしなぁ」
喋りながら立ち上がり、タンスを開けた。
「じーのほの通帳に入っとる金もよそにおる子と、とーはんが半分するよーになるんでよ」
「ほんなん黙って晃が全部引き出したらいいんでないかだ」
通帳を開きながら立って喋るじー。
「いまあーこれー。なんぼって書いとんぞ。これ」
通帳を開いたページを僕に向ける。
「2056310円じょ」
「ほーじょ。これが全部じょ」
通帳の数字の部分を指さしながら喋る。
「ほなこれを100万ずつとーはんとよその子が分けるようになるんよ」
「黙って全部下ろしたらほんなんわかるかだぁ」
呆れたように開き直るじー。
「バレるんやって腹違いの子やおったら揉めるんやけん」
「ほんなんなんで200万ばーの金で揉めるかだ」
「ただで味噌汁くばいよったら並んででも飲むだろ!?」
「おお」
数秒たったあとに、返事が飛んだ。
「ただで100万くれるや言うたら、ほら来るだろ!?」
「おおぉ」
「ワイは顔も見たことないよーな奴に金持って行かれるんが嫌なん!」
「いけるわだほんなん」
「いけんのん!!昔の時代と今は違うんやけん!!」
「いけるわだー。考えすぎじょお前わ」
「とにかくじーのもんは1円も隠し子に行かんよーにするけんな!」
「ほんなんせいでいけるわだぁ」
また面倒くさそうに言葉を発した。
「とりあえずするけんな!よそに子や作っとんが悪いんぞ」
僕は攻めるように言葉を飛ばす。
「ほんなん、わせとったもんはしゃーないでないかだ。母屋のねーさんが気つけとけよや言よったんは、こーゆーことを言よんか?」
「たぶんほーちゃん」
「こんなん。嘘ついて黙っとったらどないっちゃなれへんのに」
「どないかなるん!今のご時世!みんな金持ってないんやけん!」
「まぁ。晃に聞いてみーだ」
「うん」
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