僕がニートを卒業しようと決めた日

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*** 僕は立った腹を寝かしつけるように布団に横になり昼寝をした。 目が覚めると外は暗くなっていて、起きてしばらくしてからご飯を食べてタイミングを見計らった。 面倒な話をするときは、タイミングが大切だからだ。 お風呂上り。 まだ髪の毛が半乾きの父親に僕は話しかける。  「なーなー」  「お?」  「今日司法書士のとこ行ってきてなー」  「え?お前なんや税理士事務所行くや言よれへんかったか?」 驚いたように聞き返す父親。  「あ、そうそう、税理士事務所行ってから司法書士の事務所も行ってきたんよ」  「おー。ほんで?」  「今度じーと、とーはんで3人で来てって」  「えーーーーーー。ほれ面倒くさいでー」  「土地の名義や変えるんに本人がおらなできんらしいんよ」  「えーーーーーー」 面倒くさそうに返事をする父親。  「ほんで名義変更は書類出したりするんは司法書士がやってくれるけんとーはんやは事務所で手続きするだけで良いんやって」  「ほんなんお前プロに頼んだら金よーけいるんちゃうんか?」  「いやー。まだ聞いてないけど隠し子がおるけんこれはなんぼかかっても名義は変えとかな」  「えーーーーーー。面倒くさいなぁ。ほんなん黙っとったらバレへんのちゃうん。じーが死んだときに言わんかったらいけるだろー?」  「いやほなけどもしもなんかあったときに困るやん」  「ほーかー?」 僕の横を通り過ぎ、洗濯機にタオルを放り投げた。  「贈与税はなんやいらんらしいんよ。生前贈与でも相続時精算課税制度や言うん使ったら贈与税は取られんらしい」  「なんなほのそうぞくじせいさんかぜいせいどって」 コップにお茶を入れながら聞き返した。  「いやー、わいもよーわからんけどこれを使ったら税金取られんのやって」  「ふーん」  「ほんでじーの貯金よ。ほれもどないかしよーと思ってな」  「じーやほないよーけ持ってないだろー?年中事故してこないだも車買い替えとったでな」 (あー。) (ほなけんあんだけしか持ってなかったんか。)  「そーよ。今日通帳見せてもろたら200万くらいしか持ってなかったわ」  「ほの金はもーどないもせんで良いんと違うん?」 入れたばかりの冷たいウーロン茶を、グイッと喉に流し込んでいる。  「え?」  「ほんなんじーが死んだらスッと全部下ろしてしもたら良いんと違うん?」 父親が笑いながら喋る。  「いやいやいや。もしなんかあったら困るけんじーに遺言書を書かせようと思って」  「遺言書?」  「うん」  「ほんなんどこで書くんな?」  「なんやよーわからんけど公証役場とか言うとこがあるんやって。ほこで書くんが1番良いらしい」  「こうしょうやくばぁ?」  「またネットでどこにあるか調べとくわ」  「ほれも3人で行かなあかんのか?」  「いや、ほれはわい行かんでいいんちゃうかな。わからん」  「えーーーーーー。ほれまたとーはんは行かなあかんってことでーーーーーーー」 父親が不満そうに言葉を発した。  「あんたの親なんやけんほらしゃーないんちゃん」 僕は少し笑いながら言葉を返す。  「ほんま。よそに子供作っといてどないなっとんなこの家わ」 呆れながら笑う父親。  「知らんがな。あんたの親の話だろーよ」 僕は客観的な意見を飛ばす。  「もーーーーー」  「ほんでばーのほうわ?手続きなんかしたん?」  「いやー。今日や仕事行っとるけんなんもしてないわだ」  「あっ。ほうじゃ」  「なんなだー」  「とりあえず司法書士のところいつ行ける?」  「えーー。とーはん今度の休みいつって書いとるぞ?ちょっとカレンダー見てくれ」 タンスの横に吊るしたカレンダーを指さす父親。 僕はカレンダーを見て、赤い○の印が付けられた場所を探す。  「水曜やな」  「水曜かー。ほなほの日やなぁ」  「司法書士に行ける日わかったら電話するって言うとるけんまた電話して水曜行けるか聞いてみるわ」  「おお。んもーーーーー。面倒くさいなーーーー。もー。ばーのこともせないかんのにほんまにー」  「でもじーのんも急ぐけんちょっと頑張ってな」  「おー」
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