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「みそらさーん。みそら。よしこさーん」
呼ばれると、ばーはスッと立ち上がり歩き出した。
受付でお願いしたことが、通じたのだろう。
僕がさっき会話をしてから、10分も経っていないだろう。
僕は淡々と歩くばーの後ろを歩き、診察室に一緒に入る。
(おっ。女医や。)
診察室に入ってすぐ。
1人の男の先生の横に、白衣を着た女性がパソコンの前に座っているのが見えた僕は、ドキッとする。
「そしたら、体温計もらおうか」
ばーは待っているあいだに渡されていた体温計を、男の先生に手渡した。
「あー。熱があるんやねー。ええーと。美空さんねー。今日はちょっとほな、かなりしんどいんかいなぁ?」
僕の父親よりも年上(とみられる)、白髪まじりの先生が、ばーに質問する。
「咳がまーよけ出るんケホケホッ。やけど。ケホッ。孫が病院行かんか行かんか言うけんケホッ。ケッホケホケホケッホッ。ほなけ」
「あーほんまやねー。咳がだいぶ出よんねー。ちょっと酸素」
先生が、若い看護師さんに声をかけると、看護師さんは小指の大きさほどの白いプラスチックのような物を手渡した。
「これーいつからえー?」
先生は喋りながら、ばーの中指に白いプラスチックのようなものを取り付けた。
「あっ。2~3日前からです」
僕は白い機械を見ながら先生に言葉を返す。
「君はお孫さん?」
先生が不思議そうな顔で見上げた。
「あっ。はい」
「ご家族の方は、はじめて見ましたねー」
(え?まじ?)
(親父や毎月連れて来よったのに1回も中に入ってないんか?)
「あー92やね。これはちょっと悪いわよー。美空さん」
「えぇ。ほんま。92で」
(92?)
(92が悪い?)
(高そうな点やのにな。高いほど悪いんか?)
「ちょっとこれわー。入院してもらわないかんかもしれんねー。ちょっと胸の音聞かせてよ」
僕は反射的に体を反転させる。
「あー胸の音もちょっとあんまりよーないなー」
「入院ったって先生。あたし嫌ケホッケッホケホッ。嫌でよ」
「まぁ、ねー。ほら誰やって嫌でねー。ちょっとCT撮ってもらおうか」
先生が言葉を発すると、看護師さんと女医さんが、理解しました。と言う雰囲気の顔をした。
「すいません」
「はい?」
「CTまでって遠いですか?」
「はい?」
「本人かなりせこそうなんで、車椅子って貸してもらえませんか?」
「ああ。ほんまやね。ほな1つ」
「車いケッホケホケホッ。すってで。ほんなんいらん」
笑いながら、咳をしながら、嫌がるばー。
「いいでないかだ。座っとったら歩かんでいいんやけん」
「ほなよろしくね」
「はい」
「あたし歩け」
「言うこと聞いとけ。ばー」
「美空さーん」
背中から、はじめて聞く女性の声がして僕は振り向く。
(おお。車椅子や。)
「ほなねー。ここ座ってくれるでー」
「ほんな。大袈裟な。歩けるのに」
「まぁまぁ。せっかく持って来てくれたんやし。ね。今日だけでも座ってみてください」
先生が、ばーをなだめるかのように優しい物腰で言葉を発した。
「もおー。恥ずかしいこんなん」
嫌そうな顔をしながらも、車椅子に座り、進んで行く車椅子の後ろをついて行こうと足を踏み出す。
「あっ、ちょっとお孫さんだけ残ってくれるで」
僕は、足を止める。
***
「美空さんねぇ。あれはちょっと入院ですね」
「え?もう今すぐにですか?」
僕は驚き聞き返す。
「ほーやねー。今CT行ってもろたけど、ちょっと入院やねー」
「あの、なんの準備もできてないんですけど!?」
「ああ。準備はね、またあとでいいんでね。とりあえず受付に行って入院の手続きだけしてもらえますか?」
「あ、はい。あのー。手続きってー何をすれば?」
先生が顔を横に向けると、看護師さんが口を開く。
「そしたらね、受付で入院の手続きしてもらうんでね。こちらへどうぞ」
「はい」
僕は診察室から外来のスペースを看護師さんの後ろをついて歩き、受付の前で立ち止まる。
「入院のあの、紙くれるでー?」
看護師さんが受付の女性に話しかけると白い紙のような物を受け取り、僕に手渡した。
「そしたらね。ここにボールペンあるんでね。ここで書いて、書けたらあっちの受付の人に渡してもらえますか?」
「あっ、わかりました」
僕は戸惑いながらも、返事をする。
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