ドラフト会議の衝撃

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ドラフト会議の衝撃

 日曜日は、いい。こうして真っ昼間から缶ビールをプシュッと開けて、柿ピーぽりぽりしながらテレビが見られる。 「お、そろそろ始まるか、ドラフト」  親父まで隣に座って缶ビールを開けたから、おれは驚いた。 「あれ、親父、野球なんか興味ないじゃん」 「うん、まあ、たまにはな」  おれは中高と野球部でいまも地元チームのエースだが、それは若い頃バレーボール少女だったという死んだお袋の血で、親父の方はいたって内向きの趣味に脈絡なく手を出すタイプ。手品にはまったかと思うと、ギターにはまり、油絵を描いたかと思うと、刺繍まで。おかげでただでさえせまっ苦しい我が家は、ガラクタで足の踏み場もない。居間でテレビを見るにも、三十過ぎたおっさんのおれと、ジジむさい親父が肩を寄せ合う窮屈さだ。もっともそれを指摘すると、だったら早く嫁貰って出てけ、と痛いところを突かれるだけだから、おれは黙って場所を開ける。  そりゃおれだって、結婚を考えない訳じゃない。って言うか、幼なじみのマリエに、先週の日曜日もプロポーズした。あれが六回目のプロポーズだ。いや、七回目だっけかな。  しかし、マリエのやつにいつもはぐらかされて終わりだ。こっちも手ぶらのプロポーズだからなぁ。指輪とか、やっぱ買わないとダメかなぁ。でも、それで振られたらムダ金だし…… 「お、虚人軍の番だぞ」  親父が言ったので、おれはテレビに注意を戻した。  唐原監督がアップになっていた。現役時代は天才と讃えられていたが、凡人には理解できない采配で、リードしていた点差を一気に詰められたりするもんだから、口の悪いファンはハラハラ監督と呼んでいる。  一巡目、最初の指名選手だ。まあ、ピッチャーだろうな。いまの虚人は、投手陣が薄い。特に中継ぎにいいのがほしいはずだ。となると、甲子園で話題の怪物はらひれ高校の鎌田か、社会人野球でノーヒットノーランを達成したおそまつ電気の村岡か……  しかし、どっちでもなかった。 「大下ノボル選手、投手、新小岩ダックス」  やっぱピッチャーだよ。あれ、でも、そんな選手、いたっけか…… 「おい」親父がおれを小突いた。「お前のことじゃないのか」
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