意識してます

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※※※  あの時、なぜ言えなかったのだろう。 「おはようございます」 「おはよう、円」  十和田はいつもと同じく円と呼び笑顔を向ける。 「なんだ、そんなにみられると恥ずかしいな」 「え?」  目を瞬かせる。 「円に見つめられるなら大歓迎」  と両手を広げる。 「何を言っているんですか」  その変わらぬ姿になぜかホッとすると、十和田が顔をほころばせていた。 「なんです」  その姿にドキっとしながら、相手を軽く睨みつける。 「なぁ、今日こそ一緒に飯を食いかないか」  誘われてもいつもは断っていた。だが、例のことを聞くチャンスかもしれない。 「いいですよ」  その誘いを受けると、十和田はそれが信じられないのか、目を瞬かせた。 「え、本当に!?」 「本当です。美味しいところに連れて行ってくださいよ」 「任せておけ」  とニカっと笑い胸を張る。  昔はこんなふうに笑っていたなと、懐かしい気持ちがこみ上げる。  久しぶりに会った十和田は、大人の色気のある男になっていたから余計に近寄りがたかった。  だが、同じ課になってからは、自分の前で子供っぽい一面を見せるから、一緒にいると少しだけ気が緩む。  十和田の手が前髪へ触れる。 「な、に」  それをよけるように後ろに引いて両手で前髪を抑える。 「いや、触りたかっただけ」  再び手を伸ばし、今度は乱暴にかき混ぜられた。 「わー、ちょっと」  ご飯を食べに行くだけなのに明らかにご機嫌な十和田に、ふ、と息を吐く。  そんな円を見て、十和田の目が優しく細められ、その表情に妙に胸がときめいた。
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