苦手です

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「円、そっちはどうだ?」  一足先に仕事を終えた十和田が声をかけてくる。  入力しなければいけない書類は三枚ほど。これならすぐに終わるだろう。 「もう終わります。十和田さん、先に帰ってください」  手伝ってもらうほどでもないし、待たれても困るのでそう声をかけるが、 「いや、待ってる」  との返事だ。一ノ瀬がいれば、「俺が待っているから」と言ってくれる。だが、万丈と出張に出ている。 「一ノ瀬さんから言われているから。残業をするものがいたら、お前が最後までいろと」  そういわれてしまったら帰れと言えなくなってしまう。 「そうですか」  余計なことを言ってくれたものだ。  居心地の悪い思いのまま仕事を進める。入力は終わり後は間違いがないかチェックをして完了だ。 「終わりました」 「そうか。帰ろうか」 「あ……、俺、トイレ行くんで。先にどうぞ」  一緒に帰るなんて勘弁してほしい。それなのに、 「待ってる」  相手は引き下がらない。しかも鞄を奪われてしまった。  しかたなく、たいして行きたくもないトイレに行き手を洗って出てくる。  外で十和田が五十嵐の鞄を手に待っていた。 「随分早いな」 「はぁ」  鞄を受け取りエレベーターへと向かう。 「あの、俺のことを構いたがりますが、十和田さんのことは会社の先輩としか思ってませんので。円と呼ぶのもやめてください」  馴れ馴れしくされるのも名前を呼ばれるのも嫌だった。距離が近く感じてしまう。 「そう。でも俺はこれからも円と呼ぶし可愛がる」  諦めなさいと頭を撫でられて、その手を払いのける。
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