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このやり取りは何度かしている。だが、聞いてはくれないのだ。
外に出ると、駅とは反対側の方へと歩き出す。
「円、どこへ行くんだ」
「帰るんですよ。それではお疲れさまでした」
駅よりバス停の方が家までの距離が遠いが、一緒にいきたくないのでバス停へと向かおうとする。だが、肩に手を回される。
「バスだと遠いだろ」
「あなたと行くのが嫌なんです」
「同じ駅を利用しているからか?」
そうなのだ。つい最近、十和田が同じ駅の方へと引っ越してきた。
朝、十和田と会った時には驚いた。百が一ノ瀬に聞いたのかと疑ったが、どうやらそうではなくたまたまだという。
「そうです」
「わかった。俺がバスを使うからお前は電車で帰れ」
またなと手を振りバス停の方へと向かって歩いていく。
なんだかんだと理由をつけて一緒に帰ると思っていた。あっけない態度に円は冷静になる。
これは自分の都合だ。それに十和田をつき合わせてはいけない。
「待ってください。駅まで一緒に行きましょう」
「あぁ」
「駅は使いますけど車両は別にしますから」
「はは、そうきたか」
頭にぽんと手を置き撫でられる。
「ちょっとっ」
昔は嬉しかったのに、後ろに下がってその手を避けた。
「円の髪は昔から柔らかいな」
そういって笑う姿に胸が痛んだ。
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