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第十四章 この身体も、その心も。
「ね、一人? 誰か、待ってるの?」
見知らぬ男が、瑠衣に話しかけて来た。
「ん、待ってるの。婚約者」
そう言って、瑠衣は薬指のリングをかざして見せた。
「あ~、そうなんだ」
男は、去って行った。
ふぅ、と瑠衣は溜息をついた。
ナンパされるのは、これで4回目だ
「寿士さん、遅いな」
いや、瑠衣が早すぎるのだが。
待ち合わせの30分前に、瑠衣は市街地に来ていた。
『ミスズの銅像前で、5時に待ち合わせ。俺も、用が済んだらすぐ行くから』
今日は二人で、瑠衣のスーツを買いに行く事になっている。
春休み最後の日曜日に、寿士は瑠衣を両親に会わせる約束をもぎ取った。
『そのうち紹介する、とか言ってたが。紹介するまでもない、捨てなさい!』
あんなことを口走った父親にしてみれば、折れた形だ。
寿士は、賭けに出た。
『スーツ姿でビシッと決めて行けば、父さんも頷くと思うんだ』
まずは、ルックスで勝負。
そんないきさつがあって、瑠衣は寿士を待っていた。
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