第十四章 この身体も、その心も。

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 空き時間をスマホで遊ぶ習慣のない瑠衣は、もっぱら道行く人々を眺めていた。  ビジネスマン風の男性、着飾った女性、家族連れに、老夫婦に、制服のカップル。  みんな、幸せそうに見えた。  みんな、自分より優れた人間に見えた。 「ダメダメ。寿士さんも言ってた。自分に自信を持て、って」  瑠衣は、背筋を伸ばして前を見た。 「ん?」  そこに、一人の老人が歩いて来た。  春の陽気にはまだ気の早い、派手なアロハシャツ。  白髪は長く伸ばして、ひとつに結んで後ろに流してある。  茶色のサングラスに、赤いステッキ、NIKEのシューズ。 「カッコいいお爺さんだなぁ」  颯爽と歩いていた老人だったが、歩道の段差に足を取られて急に転んだ。 「あ!」  瑠衣は、老人を見守っていた。  すぐには起き上がらず、足首を押さえている。  とても、痛そうだ。 「だ、誰か……」  しかし、道行く人は誰も老人に目もくれない。  すぐ横を通っても、声もかけないのだ。  瑠衣は、時計を見た。 「4時50分」  多分、もうすぐ寿士さんがここに来る。  でも。 「でも……!」  瑠衣は、老人の傍に駆け寄っていた。
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