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タクシーの中で、老人は身寄りに連絡を取っていた。
「うん。今、親切な人に助けてもらって、タクシーで総合病院に向かってる。手近な者を寄こしてくれ」
通話を切った老人はサングラスを取り、瑠衣を直に見た。
「病院に、身内が来ることになった。着いたら、君はそのままこの車で戻りなさい」
「でも、車椅子に乗せたりとか、それを押したりとか」
「大丈夫。多分もう、誰かが到着してるよ」
老人の言った通り、タクシー乗降所にはスーツの男が3名待っていた。
「あ、ホントだ」
「な? 私はもう大丈夫だから」
そう言って、老人は札を数枚瑠衣に握らせた。
「あそこで誰かイイ人と待ち合わせだったんだろう。これで、何か美味しいものでも食べなさい」
「こんなにたくさん! 要りません!」
いいからいいから、と老人はタクシーから降りてしまった。
後は、スーツの男が用意していた車椅子に、ちょこんと座って手を振っている。
その愛嬌に、瑠衣も思わず手を振っていた。
それを合図にタクシーは走りだしてしまった。
「どうしよう。お金、こんなにたくさん」
『あそこで誰かイイ人と待ち合わせだったんだろう。これで、何か美味しいものでも食べなさい』
「あ! 寿士さん!」
瑠衣は、慌てて寿士に電話をかけた。
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