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その6
その6
アキラ
いつまでもボケッとしてられないし、求人雑誌に目を通してる
しかし、なかなか…、なんともだ
とにかく、今の宙ぶらりん状態にはまいってる
いずれにしても、もう間近かだろうが…
あの”茶番”が始まるのは
見張りの様子も、どことなく慌ただしい感じする
はぁ…、警察に行くことになるのか…
いくら不起訴になるって言われてもな…
納得してる訳じゃない、あくまで苦渋の選択だ
第一、偽証だ、これって…
いいのかよ、本当にって、自問自答してる
それで、ケイコちゃんにとってプラスになるのかって…
ケイコちゃんだって、親とか学校とか…
やっぱり、犠牲にするものは大きいよな
乗り越えるカベは高い…、世の中、そんなに甘くない
ああ、気が付くといつも、この堂々巡りだ…
何しろ早く決着つけたい、それで再出発しないと
...
夜8時半過ぎ…、電話だ
”いよいよか…?”
頭の中でそう呟いて受話器を取った
「アキラさん?麻衣よ」
本郷麻衣!
オレの脳裏に、あの夜のことが咄嗟に浮かんだ
あの悪夢のような一夜が…
...
「麻衣…、何の用だよ?」
「愛想ないわね。”一晩”、共にした仲なのに」
「ああ、今でも夢でうなされてるよ、あの一晩のこと。しょっちゅうだ…」
「私、あなたの夢の中までお邪魔してるのね。おけいはどうなの?私だけなの?夢見るのは」
「言う必要ないだろ。それと…、タクヤに脅迫まがいらしいな、そっちから引っ張り込んどいて。お前、なんて恐ろしい女なんだよ!」
「あなたをハメた奴じゃない。内心はいい気味ってとこじゃないの?ハハ、ギターの先生から連絡入ってると思うけど、”次の口”の時にさ、アンタにプラスになるようにと思ってさ、演出よ。第一、あなた、そんなこと心配してる状況じゃないでしょーよ、今は」
筋金入りだ、ヤクザ女め!
「用、あるなら早く言えよ」
麻衣はフフッと低い声を漏らし、薄笑いを浮かべてるようだ
そして声のトーンを変えて、用件を切り出した
「あの時の約束、守ってちょうだい。住所言うから、来て。私の部屋に」
ああ、”あの”約束か…、アイツの顔見るのも気が重いけど…
オレは住所をメモした
「まだね、のた打ち回るほどじゃないけど、南玉のアタマ外れて、このアパートも近く出されるわ。アレもやれないし、惨めなもんよ。あなたをあんな目に合わせた、憎い小娘の哀れな姿、見たいんでしょ?」
心なしか声にも張りがないかな…
まあ、簡単に間にうける訳にはいかないが…、コイツだけは
「明日の午前中までに来て。今夜来て、朝まででもいいわよ。いつ来る?」
「じゃあ明日の朝、10時ごろ行くよ」
「待ってるわ。必ず来てよ」
会うだけは会ってくるか…
しかし、何を考えているかわからないぞ、なにしろあの女だ…
くれぐれも油断禁物だ
...
その夜、久々にケイコちゃんの夢を見た
夢の中の彼女、走ってた…、そして笑ってた
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