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その1
その1
剣崎
矢島さんに呼ばれたのは、山梨県南部の某ゴルフカントリーだ
到着すると、クラブハウスの入口で政治家筋の周知3人とすれ違った
「剣崎君か!ははは、次は一緒に廻ろうな…」
そうは言っても、かなり急ぎ足だ
...
ロビーに入って見回すと、矢島さんが片手をあげて、オレを呼んでる
「やあ、遠くまですまんな。お偉方さん連中とは会ったか?」
「はい、エントランスですれ違いましたよ」
「そうか。あの面々、先週、ど壺に顔突っ込んだそうだ」
「…」
「例のな…、現政権側の金銭スキャンダル、飛び火しそうなんだそうだ」
「どういうことですか?」
「…、ところで、麻衣の例の調書、倉橋から受け取ったよ」
「ああ、聞いてます。で、どうですか?何かありますか?気にかかることとかは」
「うん、まあなってとこだな。一つだけだ…、気に留まったのは」
「それはなんですか?」
「うん、K地区の地上げ、建田のとこのな…。最後の地主、行かず後家とかって、あそこだ。一度、週刊誌載ったろ?」
「ええ、ありましたね。こっちの色仕掛けを暴露されたやつですかね」
「そうだ、それがさ、権力者さんたちの足元に火つけてる、”そこ”らしいんだわ。週刊実話キャッチって雑誌だ。で…、今この国の有力者にション便ちびらせてんのは、それ出してる出版社らしい。行かず後家が、ネタ持ってった先だわ」
「それがどうしたんですか?」
「お前らしくないな。麻衣がマッドハウス周辺探りいれた”足跡”でよ、その雑誌社に接触した臭いがするんだよ。確証まではないが…」
何ということだ、そこまでは気が付かなかった…
「泉という最後の地権者交渉、あそこの香月とかいうガキってことで、麻衣の目に入ったんだろう。考えすぎかもしれないが、もし、あの娘が今の組の状況すっぱぬいてたらどうなる?背筋寒いどこじゃないぞ!お前、わかってんのか?今のこの国、動かしてるお偉方の足元すくおうって輩に、ウチの”先代”をリークとか、これ、マンガだぞ」
「さっそく、裏取ります」
「剣崎よー、ホント、お前、ここにきてどうした?まず聞く。お前、あの娘に特別な感情ないな?はっきり答えろや」
矢島さんの仁王のような恐ろしい顔、久々に見た
「ありません」
「よし。じゃあ、もう一つ聞く。倉橋はどうなんだ?麻衣とどうなんだ?」
「ああ、倉橋は麻衣とは一番長く接してますが、ヤツにかぎって…」
「剣崎よー!どうした?テメエ、自慢のポーカーフェイス、ぎたぎただぞ。いいか、お前の言うとおり、麻衣ってガキ、半端じゃねえ。倉橋、一線超えてんじゃねえのか?もしそれなら、セオリー通りだぞ。ひっくり返されんぞ、躊躇してると。とにかく、あのマスコミと接してるか、徹底的に洗って、明日中にもってこい」
晩夏近い、のどかなクラブハウスロビー片隅での会話は、爆弾をかかえた小娘に右往左往の醜態以外、何ものでもなかった
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