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その3
その3
剣崎
ダブルミーニングだ…!
ものの見事な、相馬豹一のお家芸だ
ハハハ…、麻衣はやってくれると思ったが…
ここまでとはな…
倉橋…、まさか奴が麻衣と?
あり得る、あり得るぞ、何でもアリなんだ、”あいつら”は
早速戻って、調べをつけよう…
...
結果は、矢島さんの不安を裏付けるものだった
麻衣の自宅の電話から「現代リサーチ出版」に発信履歴だ…
あの「週刊実話キャッチ」を出してる出版社だ!
さあ、ここで冷静に考えるんだ、まずは
ヤツはホントにリークするつもりがあったのか…
あったのなら、なにも自宅から電話するか?
他の連中ならともかく、あの相馬豹一の映し鏡だぞ
外の公衆電話を使わず、俺たちが支払いやってるアパートの電話かよ
参った…、ヤツ、どこまで読んでるんだ、俺たちのことを…
...
それに、倉橋だ…、どうやら矢島さんの見立て通りのようだ
少なくとも、一度は”通じてる”、あの二人
見張りが取り込まれたようなもんだ
倉橋ともあろうヤツが…
そうなると、3本の矢もヘタすりゃ、こっち向かってくるぞ
建田サイドへのアプローチも考えられるし…
まあ、落ち着こう…
まずは、どっちから先に会うかだ
倉橋か、麻衣か…
それとも、倉橋は即切るか?
まずい、俺にも迷いや余分なもんが邪魔してる
クソッ、まごまごしてると、建田側に見破られるぞ
明石田さんの黙認も、そう長くは無理だ
ましてや、矢島さんは自分の絵図着手も考えてる
...
ははは、麻衣よ、もしや、標的は俺なのか?
俺に…、麻衣、てめえの命脈、絶たせるお誘いか…
ひょっとして、それ、どう出るか試してるってことか?
とにかく、通常の損得勘定が通じない相手ってのがキツイ
捨て身のイカレ野郎は、こうも悩ましい存在なのか…
...
麻衣の部屋でミーティングは久々だ
ヤツ、だいぶ顔色が悪いな
まだ、げっそりまではいってねえが…
「どうぞ、毒入りじゃないですから」
俺の目の前に、麦茶のグラスがそっと置かれた
いつもは見慣れてる妖しい薄笑いも、ここにきて正直、不気味だ
こいつ、どこを見据えてるんだ?
目的というものが、そもそもあるのか…
...
「麻衣、お前次第になってんだ、今。決定事項で聞かせてもらおうか。いつだ?」
「8月31日、夏休み最後の日。昼、行きますよ」
「よし、それで、矢島さんともセットする。変更はあり得ない、それでいいな?矢は2本もう飛んでるんだぞ。大丈夫だな?」
「いいですよ」
麻衣は表情一つ変えずにそう答えた
そして俺は、ここで麦茶を一口、口に運んでから言った
「…、麻衣、はっきり言う。疑念がでてる。お前、建田サイド洗って、現代リサーチってとこ、承知したな?電話したな?まず答えてくれや」
麻衣は顔色は悪いが、眼は爛々としてる
妙に不似合いでもあるが、マッチしてるようにも思える
「電話しましたよ、この部屋から。電話代払ってるの、相和会って知ってて。で、ほかに?」
「ああ、何を話した?」
「なにも…。通話時間、調べましたよね?”何時間”話してました?私…」
ヤツは、オウム返しでたたみ込むように問いかけてくる
俺も敢えてそれを承知で答えた
「…、44秒だった」
「そんなもんでしたね、あん時は…。無言電話ですよ」
「…」
...
「剣崎さん、どうしたんですか?もっと聞いてくださいよ。私の体調、”こんな状態”のうちに…」
今日は俺に”決心”させる腹のようだ…、こいつ
「俺たちに知れるはずの電話で、”そこ”に”無言発信”か…。訳、聞かせてくれ」
「フフ、剣崎さん、別にリークするつもりはないのよ。ただ、あなた達ものせたいのよ、手のひらに…、”私たち”の」
ダブルミーニング…、この野郎、確信犯だ
「相馬会長との共同作業って訳か?あの世にいる”あの人”との…」
麻衣は俺の目をまっすぐ見てる…
「そうですよ。で、まず、その質問は完結ですよね。あと、何ですかね?答えますよ、この際」
「ああ、聞こう。倉橋とは一線超えたのか?」
「はい。あの人の勲章にもう、メロメロですよ。すいません。剣崎さんの重要な見張り、張りぼてにしてしまいました…」
すんなりか…、普通は開き直りととれるが、麻衣は違う
「そう、はっきり明かしてくるとはな…。それも共同作業ってやらか?」
「そうですね。でも、どうにでもどうぞ、”そっち側”の解釈は。ただ、私にもいろいろ迷いとか、戸惑いはありますよ。それも加味して、よろしくってことです」
なるほどだ、ここにきてわかりやすかったぜ、麻衣…
...
「わかった…、とにかく31日だな。まずは、それだ。いいな?」
「大丈夫ですよ。私、他の矢と一緒に飛びますから…」
俺の”決心”はついた
麻衣のお望み通りだ、これでいくぞ、麻衣
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