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day1'幸せの始まり
――ピンポーン
アスカの部屋から戻ってすぐに、宅配がきた。淡泊な小包だ。
「では失礼します」
「ごくろうさまでした」
最後の配達だろうか、いつも急いでいる配達員はゆったりと挨拶をして帰って行った。はて、何か頼んだだろうか。
「……おい、嘘だろ」
鍵を閉めてから、宛先と商品名を見た。
『平井アスカ様
商品名:幸せマイク』
まさかと思った。だってさっきの今だぞ、信じられるわけがない。
「うっ……」
そのときズキンと頭が揺れた。
『――まず、ご信用いただくため、戻りたい時間を――』
何をしても動かないアスカのスマホ。
『とりあえずマイクに向かって何か言ったら動くようになるかも』
浮き出る3分のタイマー。
『時計だよね、これ』
アスカの声。
『俺がさっき部屋でゲームに負けたとき!』
はっ、と息をするのも忘れていた。冷や汗があごを伝い、小包にぽたりとシミをつくる。
「嘘だ、本当に――」
そういえば、今朝身に覚えのない金額が引き落とされていた。ポケットのスマホを確認する。
『siawase 300円』
小包を持つ手が震えた。
俺はとんでもないところからモノを買ってしまったのか?
「とりあえずアスカに、」
いや待てよ、靴につっかけた足が止まった。
これはチャンスかもしれない。
「平井……アスカ」
なんて胸の高鳴る語呂だろうか。
俺は静かに靴を履き、息をひそめて階段をのぼった。
――ごめん、アスカ
君に振り向いてもらうには、これしかない。
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