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【Autumn Season】 秋まつりデート 1
「滝沢さん、お疲れさん。一杯やっていきませんか」
雑誌広告の撮影が終わると、カメラマンの林さんに飲みに誘われた。
「そうだな、少しだけ行くか」
俺はすぐにスマホを取り出し、瑞樹にメールをする。
『瑞樹、悪いが、林さんと少し飲んで来てもいいか』
律儀な彼の返信は、いつも早い。
『大丈夫ですよ! 僕はもう家に帰っているし、今、芽生くんとカレーを作っていますので』
『美味しそうだな。帰ったら夜食に食わせてくれ』
『了解です! ゆっくり楽しんできて下さいね』
やりとりがサクサクと気持ちいい。それに随分と優しく送り出してくれるんだな。俺の瑞樹は本当に気立てが良くて、『打てば響く』そんな言葉が似合う男だ。
「ニヤニヤしてますなぁ~で、『奥さん』から許可はもらいました?」
「そういう林さんは?」
「うちは海外ロケ中で寂しいんですよ。だから付き合って下さいよ」
「分かった分かった。じゃあ俺の行きたい店でいいか」
「もちろん! 」
そこで以前、來川さん達と偶然出会った和風割烹料理店を選んだ。
店の暖簾を潜ると、ふわりと懐かしさが込み上げてきた。
ここで4人で飲んだのを思い出すと、顔がニヤけてしまうな
何しろあの日がきっかけで、瑞樹が俺のことを『そうくん』と甘く呼んでくれるようになったのだ。
特に俺に抱かれている最中に『そうくん……』と、甘い吐息交じりに潤んだ瞳で見上げてくれる姿は、最高に可愛い! 毎度そこから制御不能になり暴走してしまうのは反省している点だが。
「滝沢さん~さっきから思い出し笑いばかりで気持ち悪いですよ」
「悪い、甘く浸っていた」
小一時間ほど飲んで、レジで会計していると、唐突にチラシを差し出された。
「お客様、週末にこの近くの神社で秋まつりがあるので、よかったらどうぞ」
「へぇ屋台も出るかな? 」
「もちろんです。ぜひ……あっ可愛い奥様とご一緒にどうぞ」
おぉ! 瑞樹のことを『可愛い奥さん』と言ってくれるのか。
俺の薬指にキラリと光る指輪を見つめ、店員がニコッと微笑んだ。
「滝沢さん、これは家族サービスのチャンスですな」
「おうっ! 」
俄然ヤル気が出た! 使命感に燃える!
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