【Autumn Season】 秋まつりデート 4

1/1
前へ
/38ページ
次へ

【Autumn Season】 秋まつりデート 4

「宗一郎さん、あの…これって?」 「ん…君に似合いそうだと思ってね」  土曜日の夕方、仕事を終えてソファで寛いでいたしずくの膝に、デパートで購入した浴衣を置いてやると、一瞬ポカンとし……その後、面映ゆそうに睫毛を揺らしてくれた。 「えっと浴衣ですよね……これって」 「そうだ。着付けの動画があるが、ひとりで着られそうか」 「ぅ……かなり難しそうです」 「おいで、私が着せてあげよう」 「あっ、はい…」  しずくの華奢な躰には、淡い色の浴衣がよく似合っていた。白地に菫色の麻の葉模様を選んで正解だったな。 「これで大丈夫だと思うが」 「あ、はい…浴衣なんて着慣れていないので、緊張します、大丈夫でしょうか」 「よく似合っているよ。浴衣姿の君と一緒に歩けるのが、私は嬉しい」 「宗一郎さん……ありがとうございます」  私も浴衣の着付けは初体験だったが、なんとか出来て安堵した。  しずくは嬉しそうに何度も鏡を見ては、頬を赤らめていた。 「そうだ、髪を結わこう。さぁ、おいで」 「はい…っ」  しずくの長い髪をかき上げて首筋を晒し、一つに束ねてやった。  先日、彼のうなじに残した噛み痕は、もう消えていた。  残念なような、よかったような…… 「よし、これで良いな。では行こうか」 「え……? あの、どこへですか」 「決まっているだろう。浴衣を着たのだから」 「あ、もしかして……おまつりに?」 「そうだ」  そう答えると、しずくはふにゃっと頬を緩め、満面の笑みを浮かべてくれた。 「わぁ……っ、嬉しいです! そうくん……」  私の胸元に、ふわりと飛び込んで来てくれる華奢な身体。その無防備なうなじに噛みつきたくなるのを、ぐっと我慢し、その代わり彼の首筋を唇ですっと撫でた。 「ん……っ、擽ったい……、ぁ」 「すまない、出かけられなくなるな」 「……っ、もう」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1559人が本棚に入れています
本棚に追加