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【Autumn Season】 秋まつりデート 5
宗一郎さんからのサプライズが嬉しくて、子供みたいにはしゃいでしまった。誰かと浴衣を着ておまつりに行くのは、俺の記憶の中では初めてかもしれない。しかもその相手が宗一郎さんだなんて……。
この夏、仕事に没頭していたら、いつの間にか季節が変わっていた。それに暫くデートらしい事もしていなかった。
だから余計に嬉しい。
この浴衣、とても綺麗……
もしかして宗一郎さんが俺のために選んでくれたのかな…?
「おいで、しずく。君は迷子になりそうだから、私につかまっていてくれ」
彼は迷いなく、すっと俺の前に手を差し出してくれた。
ずっと人混みが苦手だったのに不思議だ。闇と人に紛れて彼と手を繋げるのなら、案外悪くないのかも。
「そうだ、せっかくだから屋台で何か買ってあげよう。しずく、何か食べたいものはあるか」
ずらりと道の両端に並ぶ露店を指さして問われて…困ってしまった。
何しろ勝手が分からない。屋台で売っている物は、どれも見たことがないようなカラフルな色合いの食べ物ばかり…
「ん……っ、ごめんなさい。良く分からなくて」
折角のデートなのに格好悪い。
恥かしくてしょんぼりと俯くと、宗一郎さんが優しく頬を撫でてくれた。
「君の頬…赤いな。そうだ、あれを買ってあげよう」
彼が指さしたのは、色鮮やかな赤い林檎が串に刺さったものだった。
「あの、これって何ですか」
「これは『りんご飴』といって姫りんごを飴でコーティングして食べやすく棒に刺したものだよ。まぁ…所謂、縁日の定番だ」
「『りんご飴』ですか…なんだか白雪姫の物語に出て来る林檎みたいですね」
人工的な赤い色に対して思ったことを口に出すと、背後から小さな男の子が走ってきて、同じ台詞を言ったから驚いた。
「おにーちゃん! これって『しらゆきひめ』のりんごみたいだね。ほら、わるいマジョがたべる『どく……』」
「わーストップ! 芽生くんってば、それは『毒リンゴ』じゃないよ」
え……っ、毒リンゴって!
っていうか、メイくんって、あのメイくん?
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