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悲鳴、罵声、怒声、壊れる音、潰れる音、粘着質な音――。
それらがすっかり静かになったのを確認して、僕はゆっくりとオフィスのドアを開いた。そして、入口脇、観葉植物の影に隠しておいたカメラをそっと回収するのである。
――これはこれは。
人事部のオフィスは、まるで獣が暴れまわった後のようなことになっていた。
顔を潰されて死んでいる女。
仰向けに倒れて動かない女。
首がおかしな方に曲がっている女。
目玉に二本のハサミが突き刺さったまま痙攣している女。
それから、それから、それから――ああ、確かなことは、どの女もみんな死んでいるか、瀕死の状態であろうということだ。
――予想以上の高価ですねえ。“魔法”を使った意味もあったってなものです。きっと素晴らしい映像がとれているに違いありません。
僕は満足気に頷くと、血まみれの机の上に転がっているネックレスのケースを回収した。僕が適当な女子社員に上げたこれは、サファイアではない。同じ青い石でも、カイヤナイトという宝石だ。その宝石言葉は“心の呪縛を解き放つ”というもの。魔力を秘めた石、その魔力をさらに増幅させることができるのが僕の力である。持った人間は、己の欲望を抑えきることができなくなるのだ。そしてそれは、他の人間にもどんどん伝播していく。特に宝石に魅了されやすい、女性達を中心に。
――次は、他の宝石でも試してみましょうか。いやはや、いつの時代も、人が醜く争って自滅していく姿を見るのは面白いものです。
青年の姿をした悪魔は、何食わぬ顔でそのまま携帯電話を手に取る。そして、わざとらしく叫ぶのである。
「も、もしもし警察ですか!帰ってきたらオフィスが……た、大変なことになってるんです!!」
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