23人が本棚に入れています
本棚に追加
召集された翌朝、夜明け前。私や陽菜たち計20名の精鋭部隊は、4台のジープに乗って目的地である匙影山を目指した。山といっても標高100メートルほどの、平地にぼこっと隆起した丘のようなもので、山一帯が鬱蒼とした木で覆われている。
この匙影山を有する街こそ、4体のリビングデッドが出現した場所だった。昼間はどこにもその姿が見られないことから、太陽のあるうちは、どうやらこの山に潜んでいると推測された。私たちの任務は、ヤツらの動きのない昼間に、山狩りをするというものだ。
結構な衝撃とともにジープが停止して、私たちは荷台から外に出た。午前6時、太陽が昇ったばかりの空気は、ひんやりと清々しい。
20キロ近い背嚢を手にジープの前にまわると、ちょうど匙影山の獣道から降りてきた迷彩服姿の3人と出くわした。そのうちの二人が、ひとつの大きな袋を手分けして持っている。
それを見た私たちは、思わず息を呑んだ。あの袋は、死体を入れる袋だ──。
「すまない。生け捕りにする筈が、殺しちまった」
最後に現れた男が、淡々とした口調で言った。その声は低いものだったが、まだ眠りから覚めぬ世界に、やたらと大きく響いた。
「ご苦労だったな、根本班長」
先頭のジープに乗っていた部隊長が、難しい顔のまま男に歩み寄る。
こいつが、根本……私は足元に置かれた死体袋ではなく、部隊長となにやら話し込んでいる男に目が釘付けとなった。
根本凛音、その名にまったく似つかわしくない、鋭い眼光を持つ男。他の二人と比べても小柄だが、それさえも男の俊敏さをアピールしているかのように見える。
精鋭中の精鋭として、全隊員、否、精鋭部隊を知る者すべての憧れの存在……
ふっと、私は嘲笑を漏らしてしまった。根本凛音がどれほどの実績を持っているかなど関係ない。私こそが、根本凛音を凌ぐ存在となるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!