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雲間から太陽が顔を出し、辺りをキラキラと照らしだした。凛音と話し込んでいた部隊長が、ふと私たちへと体を向けた。
「これより10分後、3名ずつ6班に分かれ、一斉に匙影山に入る。新たな症例の報告はない、つまりまだ、3体のリビングデッドがこの山に潜んでいる事になる。ヤツらは夜間しか行動しない。が、その生態はまったくの謎に包まれている。ただ、ヤツらに傷を負わされたら、ヤツらの仲間になってしまうらしい。お上は生きた状態での捕獲をお望みだ。しかし、生け捕りが難しいようなら殺害もやむ無しだ。落ち着いて行動せよ」
「はっ!」
隊員たちの野太い声が周囲に谺した。
匙影山をぐるりと囲むように配置につき、予定通り山へと分け入った。私たちの30メートルほど左の地点には、陽菜の所属する班がいる。せいぜいヤツらの仲間にならないよう気をつけるがいい。
行く手を阻む枝や下草を掻き分けながら10分ほど進むと、高度を上げた太陽が、葉の隙間から容赦なく照りつけてきた。暑い。まだ4月半ばだというのに、異常な暑さだ。一説によると、地球温暖化は英国の産業革命の時から始まっているという。地球はもう限界なのかもしれない。
と、ふと前を歩く凛音班長が足を止めた。私はほとんど無意識に、肩に提げたライフルを構えた。
「そこで何をしている」
凛とした班長の声が響く。私は素早く目を動かして周囲を見渡したが、どこにも、誰の姿も捕らえる事ができない。
「聞こえないのか。さっさと出てこい。今なら見逃してやる」
見逃す……?
訝しむ私は、ややあって木の影からおずおずと出てくる二人の若者を確認すると、一気に怒りが噴出するのを感じた。
ここ匙影山は、最初の事例が起きてすぐ立ち入り禁止となっている。山を中心に、半径2キロ以内の住民に至っては、避難場所での生活を強いられているというのに。
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