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両手を上げ、ばつが悪そうな顔でこちらを見る若者は、だが、へらへらと薄ら笑いを浮かべていた。
「ここは立ち入り禁止区域だが、それを知らないというつもりじゃないだろうな?」
「これ以上先には行ってませんよ」
弁解のつもりだろうか、笑って許してもらおうとしている。まったく腹立たしい。
「ここで何をしていた?」
凛音が再度質問を放った。感情の一切を感じさせない、抑揚のない声。
若者は互いに顔を見合あわせ、やがて観念したかのようにふうっと息をついた。
「ゾンビって、昼間は動かないんでしょう? だったら昼のうちに、写真でも撮っとこうかと思って」
「なぜ?」
「なぜって、本物のゾンビの写真とか、絶対バズりますって。なあ?」
「ていうか、本当かどうかも解らないのに、夜は外に出るなとか、この国、おかしいっすよ。うちの兄貴はバーを経営してるんだけど、店開けねえって泣いてますよ」
よほど鬱憤が溜まっているのだろう、若者の口から次々と不満が吐き出される。それを黙って聞いていた凛音が僅かに振り向き、私を通り越して喜孝へと視線を向けた。
「彼らを麓まで送ってくれ。あとは部隊長に任せる。俺たちには俺たちの任務があるからな」
一瞬若者たちの顔が引き攣ったが、大柄な喜孝がのそりと近付くと、諦めたように素直に従った。
3人の姿が木立に消えると、凛音は背嚢を地面におろし、その横に尻をついた。
意外なその行動に、私は目を見張った。てっきり、私たち二人で先に進むとばかり思っていたのに、まさか喜孝が戻るのを待つつもりか。
「昼間は動かない、というのも、まだ単なる憶測に過ぎない。喜孝を一人にする訳にはいかない」
よほど私は怪訝な顔をしていたのか、まるで心を読まれたかのように凛音が静かに言った。
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