無人島

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 ある晩のこと。  その島は、今まで経験したことのないほどの大きな嵐に見舞われました。  家を持たない人たちにとって、この島に身を隠す場所はほとんど残されていませんでした。盛り上がった地形の隙間にできた洞穴や、わずかに残っていた木々の陰に集まり、居場所をめぐって争いが起きました。  雨風は徐々に強まっていき、立っていることさえ難しくなりました。海は大荒れとなり、地面を打つ波の音が、離れたところでも聞こえました。そのうち、低い土地に建っている家から順に波に飲み込まれ、家を持っていた人々も外に逃げ出してきました。  こうして、この島のほぼすべての人たちが、島で最も高い位置にある丘の頂上を目指すことになりました。  吹き荒れる暴風雨の中、島民たちは我先にと押し合い、丘の上を目指して駆け出します。雨と風の騒ぎの中に、悲鳴と罵声が交じり合い、誰の耳にも誰の目にも、自分以外の存在はすべて障害物と見分けがつきませんでした。  丘の上は一段と風が強く吹いていました。一番に到達した男は風に飛ばされぬよう、ちょうどそこに建っていた墓石にしがみつきました。あとから来た人たちは力尽くで男をどかし、今度は自分がしがみつこうと墓石の前で争いになりました。誰かが掴まっては引きはがし、また誰かが掴まっては引きはがしの繰り返しで、突き飛ばされたり風に煽られたりして崖から落ちる者がいても、気にする人はいませんでした。  結局、一人の男を残して、ほかの人間はどこかに飛ばされるか、力なく地面に横たわっていました。  ようやく安心できる―男がそう思った時、嵐はもう目の前までやってきていました。
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