狼少年

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狼少年

 これは今より遥か昔のヨーロッパの    ある村の男の子のことだ。 その男の子の名はジョゼフといった。 15歳で羊の飼育を生業としていた。 いつもは至って普通の好青年であった。 だが、1つ問題があった。 それが大嘘つきである点だ。 本当にいつもは好青年なのだ。 しかし月に1度同じ日に 大嘘をつくのだ。 それも全て同じ様な というより全く同じの嘘なのだ。 彼の嘘はこうだ。 必死に叫ぶ。 「狼が来る!皆逃げるんだ!」と。 当初は皆信じ切って、 隣の村まで逃げ込んでいた。 しかし以前に村に残って 真偽を確かめた男がいた。 それが村長だ。 「あの子の言う事は本当なの?」 婦人に問われたので 確かめることになったそうだ。 結果、狼は来なかった。 それから、彼の狼の情報は嘘だと 見破り、次第に逃げる者はいなくなった。 しかし、ジョゼフが嘘をついていたと 知ったあとも、彼を村から 追放するということはなかったのだ。 それは、普通の日は誰よりも真面目に働き、 素直で純粋な子だからだ。  何かの病気なのだろう。 村人は皆そう思っていた。 ジョゼフが嘘をついた次の日、 共に羊の飼育をしており、 ジョゼフの上司の役職である コーフィーが1つ問うた。 「羊が減っている気がするのだが 気のせいか?」 「狼が喰いちぎったのですよ。私は見ました。」 「また、そんな嘘を…では証拠は?」 「狼は小屋の床についた血まで全てを舐めきってしまっていたのです。 よってありません。」 「では昨日、お前は その小屋に一晩いたのか?」 「いえ、それが覚えていないのです。」 その言葉にコーフィーは激昂する。 「やはり、嘘か。どうせお前の 管理不足だろうが。どうしてくれる!」 「すみません、すみません。」 「もう我慢できん。 来月また嘘をついたら、 その日の晩は村の男衆全員で 狼は本当にくるのか、お前が何をしてるのか監視するからな!」 1ヶ月後… 「皆さん!狼が今晩来ます。 逃げてください。」 ジョゼフはいうが、当然信じる者はいない。 「ジョゼフの野郎またあんなことを… おい、お前ら行くぞ!」 コーフィーは宣言通り村の男衆を全員連れて ジョゼフの小屋へ向かった。 「よぉ、ジョゼフ。 今晩は一緒にいさせてもらうぜ。」 「駄目です。逃げないと、もうすぐ日が暮れる。取り返しがつかなくなります!」 「ふっ、取り返しがつかなくなるのはお前のほうだろジョゼフよ。」 日が暮れる。暗闇が村を支配する。 「さあ、日が暮れたぜ?」 「うっ…みんな逃げて!逃げないなら、 僕は1人で逃げる。」 「おい、待てよ!」 慌てて村の男がジョゼフの腕を ガシッと掴む。 男衆は群がってジョゼフを 逃がすまいとする。 「止めてください。 逃げて。グゥッ…ウッ…」 突然ジョゼフがうずくまる。 「どうしたんだよジョゼフ!」 「クラド。騙されるなハッタリだ。」 「コーフィーの親父さん。ジョゼフの腕から獣毛のようなものが生えてきています。 あとどんどん筋肉質になって…ぐわぁっ…」 「どうしたんだよクラド!」 「噛まれたッ。逃げろ! 狼はいた。狼の正体はジョゼ…」 ガシュ…鮮血を撒き散らし、 クラドの首が足元に転がる。 小柄なはずのジョゼフの体躯は瞬く間に がっしりとした3メートルにもなる二足歩行の狼となった。 「そうか、今日は満月。狼、少年…」 男衆は群がってジョゼフ否、 狼男に立ち向かうが、 血と肉片に変えられていくばかり。 全てを知って、 "逃げなければ" そう感じさせられた今となっても 足が竦んでうごけない。 その場にへたりこむコーフィーは、 狼男の死神の鎌のような爪に 首を斬られるのを 待つ他なかった。
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