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薔薇の騎士団
薔薇の騎士団、通称「薔薇団」はこの国史上初の男性のみで構成された軍隊である。
魔力を持たない彼らの武器は昔ながらの剣や槍であり、最初人々は剣で魔法と戦おうとするその姿を嘲笑した。
しかし人々の予想を裏切って、彼らはその情熱と勢いで何度も侵略国との小競り合いで勝利をおさめ、ついに正式な国家騎士団として認定されるまでになった。
そんな現在お株急上昇の騎士団は志を同じくする男性たちが日増しに増え、薔薇団の談話室は今日も賑やかだった。
「あ…ありのまま…見てきたことを話すぜッ!!」
叫んでいるのは騎士団でも選りすぐりの実力者、フレディ。
ゲヘナ千年帝国に潜入していた彼が戻ってきたのはつい最近のことだ。
「なぁ、MTO48だったら誰が推し?」
「んなもんソフィアさんに決まってんだろッ!! 彼女は俺の天使だッ!!」
「あー…そっちかぁ…」
「人の話を聞けよッ!!」
目の前でどうでもいい話を繰り広げている二人の男をフレディが一喝する。
「えー…。その話、長い?」
つまらなさそうな目でこちらを見上げてくる男二人を睨んでフレディは続けた。
「マジで大事な話なんだッ! 団長にはもう報告したんだが…ゲヘナ千年帝国には…」
「おー、そういやお前スパイ活動してたんだっけ?」
「まじか。どうだった?」
ようやく話を聞く気になった二人にフレディが力いっぱい叫んだ。
「ゲヘナ千年帝国には、可愛い女の子のウエイターがいるんだッ!!!!」
目が点になる二人。
次の瞬間、爆笑しながら二人は口々に叫んだ。
「んなわけねぇだろッ! ウエイターつったら世界広しと言えどむさ苦しいおっさんしかいねぇって」
「いやマジだってッ!! FLR48のジェシカちゃん似の可愛い金髪の女の子がお…お、俺に…俺に……お茶を……ッ!!」
笑いながら別の男が突っ込んだ。
「それこそあり得ねぇよ。んな可愛い子だったら絶対高級官僚とかだろ」
その会話を聞きながら近くを通りかかった青年が苦笑して三人に持ってきたお茶を渡す。
「……すみません。可愛い女の子じゃなくて」
「師団長…ッ?!」
慌てて敬礼している三人を眺めながら、師団長と呼ばれた男、ジェイは笑顔で三人の近くに座った。
「構いませんよ。休憩中の談話室ですから」
にこやかに話すこの男に剣で勝てる騎士は団長くらいのものだろう。
騎士団№2と言われた団長の片腕はにこやかな笑顔で続けた。
「それで? フレディさんが見てきたのはウエイターの女の子だけですか?」
「あ、い、いえ…ッ! 一応帝国軍の末席に加わって何度か戦場をッ!!」
「おま…それを先に言えよッ」
突っ込む二人の方を見てフレディは怒鳴った。
「テメェらがいちいち突っ込むからだろうがッ!! いいか! 俺はゲヘナの皇帝が魔法を使うところをこの目で見たんだ」
「…噂には聞いていましたが、やはり魔力の問題を抱えているのはこの国の男性だけのようですね」
ジェイに頷いてフレディは続けた。
「俺は、奴はたった一人で魔法を使ったと思っていた。しかし……奴は…ひとり48だったんだッ!!!」
「は?」
ものの見事に三人の声がハモった。ボケコンビが冷たい声で突っ込む。
「つか男の48とか見たくねぇわー…」
「え? マジで? 皇帝って四十八人もいんの?」
愛すべきバカたちに愛情をこめてフレディが泣きながら怒鳴る。
「ひとりだっつってんだろうがぁぁぁぁぁッ! 一人なのに48だったんだよぉぉぉぉぉ…。…頭がどうにかなりそうだった。催眠術だとか、超スピードだとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ…ッ! もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
一人語るフレディの横で、二人は既に違う話を始めていた。
「じゃー…BLZ48だったら誰推し?」
「んー…アンナちゃんかスーザンさんッ!」
「お、俺も俺も…」
再びフレディの怒号が響く中、ジェイは静かに茶を飲んだ。
噂によれば、その皇帝はたった一人で一国を滅ぼしたという。
やはり…今のままでは厳しい。
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