プロデューサーと騎士団長

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 淹れてもらった茶に口をつけて落ち着きながらルーカスは訊き返した。 「企画? 次はどのチームの国内ツアーだ? それとも大統領か?」 「ああ。その大統領に見合いの話が来ている」  盛大に飲んでいた茶を吹いて咳込んでから、テーブルの上を拭く。  予想通りの反応をくれた親友を満足げに見降ろしてエドワードが続けた。 「ヴラディッシュっつー噛みそうな名前の国だ。実際、アリシアが良く噛んでるけどな。そこの皇帝がアリシアと結婚したいんだとよ」 「ま、まさか…それも受けるのかッ?!」 「おー、受けるぞ。上等じゃねぇか。うちの可愛い妹に手を出そうなんざ」 「お前…ッ、ヴラディッシュといえば一見普通の国だが吸血鬼の一族が支配する国だぞッ?! この前潜入させた騎士からの報告書を出しただろうッ?!」  彼らに関してわかっていることは、血を吸うことで人間を吸血鬼化できるらしいということと、何故か身分の高い貴族になればなるほど日中は姿を現さないということだった。  お前は自分の妹を吸血鬼の生贄にする気かと言いたげなルーカスに、声を上げて笑いながらエドワードは返した。 「だからだよ。純血にこだわる吸血鬼の皇族が、ただの人間のアリシアと本気で結婚するわけねぇだろ」 「……つまり、本当の目的は大統領を吸血鬼化して合法的に国を併合すること…?」 「逆に言や、ドラキュラ皇帝を日干しにしちまえば儲けもんだろ? とりあえず日中は動けねぇって噂を確かめるために、今は何も気づいてねぇ振りしてテオゴニアの風習で見合いは天気のいい日の昼間でかつ中庭じゃねぇと縁起が悪いから受けたくねぇって返事して様子を見てる」  さぞ今頃返事に困ってるだろうぜ、とかなんとか言いながらくつくつと喉で笑っているエドワードに絶句するルーカス。 「…………」  彼が何か言いかけた瞬間だった。  突然バンっとノックも無しにドアが開き、眼鏡をかけた美人の女性が通りの良い声で怒鳴る。 「失礼しますッ!」 「おー…今日も相変わらず無双してんなマリアンヌ。失礼しますはドア開ける前に言えよドア開ける前に」  半眼になってどうでもよさそうに返すエドワードにマリアンヌが室内を見渡す。 「参謀長、どなたかお客様がおられるようですね」  テーブルの上に置かれたティーカップが二つ。そしてルーカスはいつの間にかエドワードの足元に隠れていた。 「…構わねぇよ。ちょうどさっき帰ったとこだ」 「どなたが来られていたので?」  キラン。メガネが逆光に光る。 「俺の三十七番妻だ」  あまりの言い草にマリアンヌの顔が一瞬にして真っ赤に染まった。  この国では男性が複数の女性と付き合うことほど罪なことはないとされている。 「まぁ…ッ!! なんと汚らわしいッ! いいから早くその足の下に隠れている男を差し出しなさいッ!!」 「………………」  誰がどう見てもバレバレだった。慌ててエドワードの足元のソファの下に潜ったものの、普通の椅子と違ってスペースはかなり狭く、エドワードの方も咄嗟に近くにあったひざ掛けで隠してやることしかできなかったのだ。  それでも一応友人のために抵抗してやるエドワード。 「いつから俺はマジシャンになったんだ? 言っとくがハトも出せねぇぞ?」 「お黙りなさいッ!! ではその股間のふくらみは何なのですかッ!」 「あぁッ?! 男が股間膨らませてるっつったら一つしかねぇだろうがッ!!」 「な、な、なんて汚らわしいぃッ!! いいからそこからお立ちなさいッ」 「やーなこった。てめぇがここからお立ちされや」 「~~~~~~ッ!! …よろしい。あなたに話しても埒が明かないようです」  息を整えてから、神々しい声でマリアンヌは高々と告げた。 「誇り高き騎士団長ルーカスよ。あなたはその汚らわしい男の股間の一物としてこれから生きていくのですね? 本当にそれで良いのですね?」 「……………………」  しばらくしてから観念したような顔で出てきたルーカスが呟く。 「…すまない。…………無理だ」 「あ、テメコラ、せっかく俺が頑張ってやってんのに」 「いい加減になさいッ!!!! これだから男性は…」  くどくどくどくど。何故かエドワードまでルーカスと一緒に説教される昼下がり。  今日もテオゴニアは平和である。
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