ヴラディッシュ皇帝悩殺計画

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ヴラディッシュ皇帝悩殺計画

「そ、それでですね…ッ! UTM(アルテマ)48のエリーちゃん似のちょっとツンデレ気味な侍女がサッとカーテンを……」  興奮気味に説明する男に、ややうんざり気味のエドワードが呟いた。 「…お前、侍女しか見てねーじゃねぇか。皇帝はどうだったんだよ、皇帝は」  国の中枢の人間が集まる閣議。…の、はずだが、緊張していたのは最初の一分だけで、途中から報告の中にヴラディッシュの女の子が出てくるたびに逐一見た目がどうだの話し方がどうだのと饒舌に語る男に一同は頭を抱えていた。 「あー…で、ですから皇帝はカーテンが開いても涼しい顔で『おわかりいただけただろうか…?』って」  何故か皇帝のセリフの部分だけ低くて渋い声で話す男を帰らせた後、エドワードが露骨に天井を仰いで息をついた。 「…誰だよ。男を使者に選んだ奴…」 「も、申し訳ありませんッ! て、手違いがございまして…」  その言葉に必死に頭を下げる外務大臣の女性。  女性が男性にこれほど必死に頭を下げている光景はこの国ではここでしか見られないだろう。 「ケイトを責めても仕方ない。それに、わざわざそんなパフォーマンスをしてまで強調してきたんだ。もう確定でいいと思うが?」  アリシアのハキハキとした良く通る声が響く。  一番奥の大統領席で堂々と座る小さな王に、エドワードがあくどい顔で笑った。 「ああ。短時間なら平気、室内なら問題ない、何らかの処置なんかで耐える方法がある、そもそも替え玉で出てきたのはただのそっくりな人間…………可能性をあげりゃいくらでもキリがねぇが、わざわざ中庭のない宮殿作ってる時点でほぼ確定だろ」 「でしょうね。こっちが中庭じゃないと縁起が悪いって言ってるのに中庭のない建物でお見合いしましょ~なんて返事をよこす時点で黒確定でいいと思うわよん?」  豪奢な金髪を頭の上でまとめ上げた背の高い女性がニコニコと笑う。  正式な閣議だというのに大きく胸元まで開けたラフな着こなしの軍服に砕けた口調。このふざけた雰囲気の女性こそがこの国で最高の魔法騎士団団長にして元国立軍元帥、エルミナだ。  畏まった外務大臣が小さく叫んだ。 「で、では……直ちにこちらの大統領邸の中庭で再提案いたしますッ」 「ダメよん」 「え?」  エルミナに即答されて眼鏡の外務大臣が固まる。  アリシアの声が代わりに返ってきた。 「向こうは一度、中庭のない場所を提案してきたんだ。都合が悪い事はもうわかった。これ以上中庭で引っ張っても替え玉が出てくるだけだ。あくまでそれでは縁起が悪いと言い張って、こちらの白バラ宮で再提案しておいてくれ。あそこなら室内庭園だから、本物が来るだろう」  手際よく見合い会場の手筈を指示していくアリシアに、エドワードが楽しそうな顔で片手を上げた。 「…なんだ?」  嫌そうな顔で訊いてくるアリシアにエドワードがニヤニヤしながら返す。 「せっかくテオゴニアまでご足労願うんだ。我が国のもてなしってやつを用意してやんなきゃなぁ、大統領」 「…………」  嫌そうな顔のまま黙っているアリシアに、エルミナが高い声で笑う。 「んふふ…。私も手伝うわよん? 大統領」 「………………」  アリシアの広い部屋にずらっと女性の執事たちが並ぶ。 「なんでそうなる…ッ!!」 「決まってるでしょ~? 我が国の最高に美人で最高に可愛くて最高に魅力的なアリシア大統領をヴラディッシュの皇帝に見せつけてやるのよッ!! そして……世界一のアイドルの力で干からびて春過ぎたドラキュラ皇帝を悩殺してやるのよッ!!!」  新作の衣装を次々試着させられながら必死に抵抗しているアリシアが叫ぶ。 「どう考えてもそういう見合いじゃないだろッ! 兄貴も一体何を考えてるんだ…?」 「もちろんあなたのお見合いを盛り上げようと裏で色々頑張ってるのよん。私の魔法騎士団の精鋭たちも歌って踊ってあなたのお見合いを大いに盛り上げてくれるわ」 「…………」  何かがおかしい。見合いとはいったい。  試着隊にもみくちゃにされながらアリシアが呟いた。 「……大体、私に男の人を悩殺なんてできるわけないだろ。デートもしたことないのに………」  軽く息をついてエルミナがそっとアリシアの顔に触れる。 「いつも言ってるでしょ? 自信を持ちなさい、アリシア。こんなに可愛いあなたの魅力でノックアウトできない男なんてこの世にいるわけがないもの」 「姉貴……」  瞬間、背景にバラが咲く。  遠巻きに見守る試着隊の女性たちが口々に囁いた。 「ああ…ッ!! なんと麗しい姉妹愛…ッ」 「素敵…ッ、素敵ですわ…ッ」  が、次の瞬間アリシアの怒鳴り声が官邸中に響き渡った。 「…なわけあるかぁぁぁぁッ!! どこまでめでたいんだこの国はぁぁぁぁぁッ!!」  アリシアの怒鳴り声が響く中、試着隊たちが再びいそいそと次の衣装を準備し始める。  …見合いの準備は着々と進んでいた。
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