夕凪

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 穏やかな風に押され港に入ってきた小さな帆船。まばらな乗客の中に、異国風の出で立ちをした旅人が二人。 「先に様子を見てくる。お前はゆっくり来い」 「ヒナ! 待って待って、豆之助(まめのすけ)がー」  ヒナと呼ばれた背の高い青年は、接岸すると同時に、大きな荷を背負(しょ)ったまま甲板から飛び降り、町へと続く道を歩き始めていた。ややぎこちなく舷梯(げんてい)を降りてくる娘は馬の手綱を取っており、言われたようにゆっくりとヒナを追うはずだった。  そして今、彼らが押しているのは、ここいらでは見かけない馬具を付けた小ぶりな馬の尻だ。  生活用品一式を背に振り分けられた馬は、この二人が故郷を出る前からの長い付き合いだ。旅慣れている馬とはいえ、船での長旅は不満も多かったようで、陸に上がった途端に一歩も進まなくなってしまった。これに困った娘は、馬の顔を撫でたり優しい言葉をかけたりしたが、にっちもさっちもいかない。 「……豆之助、飯なら後でくれてやるから今は動け。いくらオズヌでも、ここで語る訳にはいかん」  じきに日も暮れる。生憎(あいにく)この町に頼れる知り合いは居ないし、路銀も持っていない。オズヌとヒナは、その特殊な職業ゆえ何処に行っても食うに困ることは無かったが、まずは寝床と食料を調達せねばならない。  そんな事情に構わず足をふんばって抵抗する豆之助に、ヒナが干した野菜をひと握り差し出す。分かればいいのだと言わんばかりに野菜を口に入れ、もちゃもちゃ噛んでいた豆之助が、ようやく動き出した。  予定を大きく変えられたヒナは溜息をつき、片手でオズヌを抱き上げる。そして、のろのろ歩いている豆之助の背へと彼女を乗せて、手網を手に今度こそ町へ向かう。
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