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01
俺には小さい頃から女手一つで育ててくれた大切な母がいる
18歳になった現在も共に暮らしてるなんて親離れ出来ていない子供のようだと言われそうだが、まさにその通り
知名度は有るが歌手として中々売れてない俺の唯一の味方であり、その支えによって
歌手……シンガーソングライターの道を進んでいた
それと同時に母は身体が弱く
特に最近は咳をすることが多くなっているのも心配で、比較的に時間の空いてる俺は傍に居て身の回りの手伝いをしている
『 はよ。今日は夜の19時から歌番組に出る予定だから帰るの遅くなる 』
パートナーであるアコースティックギターの入ったギターケースを背負い
仕度を終え自室から下りてくれば香りのいい朝御飯に腹は鳴り、リビングの椅子の横に一旦置き、椅子へと座り両手を合わせてから食べ始める
「 ふふっ、それなら録画して観なきゃね。碧くんが歌うなんて、嬉しいわ 」
『 録画するほどじゃねぇって…… 』
この年齢になっても母にとってはいつ迄も俺を子供扱いしてるが、それでもこの生活を甘えて気に入ってる
『 まぁ、でも……母さんに向けて作った歌だし、聴いてくれるのは嬉しいな 』
柔らかく笑う母の表情が好きだ
45歳になる年齢だが、シワが殆どなく若々しい
有名な女子校の出身らしく物腰も柔らかで落ちついた雰囲気を持ち合わせている
俺の父親の事は知らないが、母がずっと居てくれた為に其だけでよく、母を捨てた男の事なんて考えたことは無かった
「 ッ、ゴホッ、ゴホッ…… 」
『 母さん?大丈夫か?直ぐに薬持ってくる 』
「 ごめんね、碧くん……ゴホッ 」
突然と咳をし始めた母に一度食べるのを止め、普段飲んでいる薬を取りに行き水の入ったコップと共に差し出せば、ゆっくりと飲ませていく
肺が弱く、特に気管が狭くなっているらしい
詳しい病名は知らないが、難病だとは聞いてない
其だけで安心してる自身がいる
「 ありがとう、もう、落ち着いたわ 」
『 それならいいが…… 』
「 ふふっ、心配性ね。私は大丈夫よ 」
少しして落ち着いた母は、子供扱いをするようにその細い指をした手で頭を撫でてきた
日本人生まれの母親だが、俺の容姿はハーフのように青い瞳をして、本来なら金髪だが今は紺色の髪に銀のメッシュが入った髪に染めている
ハーフだと言う事は知ってるが父親がどの国の人かは知る必要はない
『 まぁ、無理すんなよ。洗濯とか帰ったらやるし 』
「 うん、いつも助かるわ 」
撫でていた手を頬へと当て、そっと触れる母をじっと見詰めれば母は俺の身体へと腕を伸ばし抱き締めてきた
昔はもう少し大きい人かと思ったけれど、今は俺の方が身長も高く体格も其なりにいい
「 愛してるわ、碧兎。今日も頑張ってね 」
『 ん、俺も母さんを愛してる。行ってくる 』
いつもの挨拶を終え、残りの朝御飯を食べ終わり、皿をシンクに戻してからギターケースを背負い直し家を出る
『 行ってきます 』
「 行ってらっしゃい 」
俺にとって母は大切な存在であり
唯一の恩返しなんて、小さい頃から声がいいと言われていた歌しかない
レコード会社迄の道のりは電車で通うのだが、朝の通勤ラッシュが終わった頃の時間帯をよく使う
よく、芸能人とかがマスクやらサングラスとか使ってるが俺は容姿を隠すアイテムを何一つ使わなかった
使う必要が無いほどに声を掛けられる事がまず無いからだ
電車内でイヤホンを付け、スマホを弄り
観れなかった時間帯に放送されていたアニメを見直す
録画していて良かったと思いながら、市街地から離れた場所にある
家から片道30分の電車の中は唯一の趣味に費やせる時間だ
『( やっぱり、ブラッドの声いいな 』
今、観てるアニメは放送開始して8年が経過してる、奇襲してくる敵を倒す戦闘系のアニメで漫画の方は10年目になる
特に俺が好きなのは主人公の助っ人的な立場であり、最強と呼ばれる男のキャラ
ブラッド・ヴァレンタイン
このキャラが出てきた瞬間に声に惚れ、今ではこの声優さんの声が好きだと思うほどに様々なアニメを観るようになった
だが、一番は8歳の頃に初めて見たブラッドの声と演技力に惚れ、彼が演じているキャラでは一番好きでフィギュアやら色々集めていた
『( 影虎さん……声いいなぁ )』
低い声なのだが、低すぎず高過ぎもしない
どちらかと言えば色気の含んだセクシーボイスだからこそ男女の人気がある
俺もその一人
前作の漫画をしてる為にアニメの方は殆ど綺麗で迫力ある映像と声を楽しむぐらい
今日は此所のシーンまでかと観た後に、彼の歌うキャラソンへと変え丁度よく目的の駅へと辿り着けばレコード会社へと向かう
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